僕惚れ③『家族が増えました』
 葵咲(きさき)は寝るときにはシンプルなスウェットの上下を寝巻きにしている。

 季節柄、日中は汗ばむけれど明け方などは少し冷え込むので、最近は薄手の生地の長袖・長ズボンを着用中だ。
 実はこれが結構くせもので、一応下着は身につけてくれているものの、理人(りひと)がほんの少し触れると、身体の――というか乳首――の感触などがすぐに分かってしまって参る。

 昼間葵咲がつけているブラジャーとは明らかに手触りが違うそのブラは、夜用なのだと前に葵咲から聞いたことがある。
 「昼間と一緒のじゃダメなの?」と聞いたら「それだと苦しいから」と言われ。
 苦しいならノーブラでも構わないのに、と思った理人だったけれど、すぐにそれは間違いだと気がついた。

 ナイトブラをつけてくれていてでさえ、葵咲の身体を想像して元気になってしまう理人に、例えばTシャツにノーブラの葵咲なんて皿に盛り付けられた生贄《ごちそう》以外の何ものでもない。

 連日はさすがに葵咲ちゃんにも負担だし、今日は寝るだけにしよう!と心に誓っていても、不意に葵咲の胸元に意識がいってしまうと、どうしても触れたくなるし、触れて葵咲が反応してくれていることが分かれば、抱かずにはいられなくなってしまう。

 触れたらそこがしこるのは、別に感じている云々とは関係のない生理現象なのだと分かっていても、なお理人は葵咲を求める気持ちを抑えられなくなる。

 それこそ葵咲の体調がよくないとか、そういうことでもない限り、理人は自分自身を律することが出来ないのだ。
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