トップシークレット☆桐島編 ~新米秘書はお嬢さま会長に恋をする~
「うん、ぜひそう呼んで。馴れ馴れしいなんて思わないで? 貴方の方が年上なんだから」
彼女はむしろその方がよかったようで、僕は嫌われるどころかより好感をもってもらえたようだった。それ以来、僕は結婚後も彼女のことを「絢乃さん」とお呼びしている。呼び捨てなんておそれ多くて、一生できない気がしているのだ。
――それからしばらく、僕と彼女は他愛もない会話をしながら二つ目のフルーツタルトを平らげた。
その頃になって、彼女のスマホに加奈子さんからメッセージが受信した。そろそろパーティーを締めてほしい、招待客のために帰りの車の手配はしておいた。……まあ、そんな内容だったのだろう。後になって彼女から聞いた内容は、まったくそのとおりだった。
「ママ……、わたしはどうやって帰ればいいのよ」
彼女のこの呟きは、実は僕の耳にも入っていた。加奈子さんが彼女の帰りの手段を伝えなかったのは、きっとわざとだろう。僕がお家までお送りすることになっていたので、それを聞いたお嬢さんを驚かせたくてお膳立てして下さったのだ。
「――ああ、もうすぐ九時になりますね。少し早いですが、そろそろ」
僕は腕時計に目を遣った。ちなみにこの時計は、ブランド物でもなんでもない三千円のものだ。
時刻は九時近くになっていたので、少し早いが彼女を促した。
彼女は僕に頷いて見せ、ステージへ上がっていくとマイクを持ち、会長の途中退出の旨と、閉会の挨拶を会場内の招待客に告げた。
ざわざわと招待客が引き上げていく中、彼女は強張った顔でステージ上から彼らを見送っていた。
相当気を張りつめていたらしく、席に戻ってきた彼女は大きく深いため息をついていた。やっと肩の力が抜けたらしい。
僕はそんな彼女のために、ドリンクバーで冷たいウーロン茶を淹れてから再びテーブルに戻り、彼女の前にグラスを置いた。
「――お疲れさまです、絢乃さん。喉渇いたでしょう? これどうぞ」
「あ……、ありがとう。いただきます」
よほど喉が渇いていたのだろう。彼女はウーロン茶をグビグビと一気に飲み干してしまった。お酒ではないが(未成年なのだから当たり前だ)、惚れ惚れするくらいにいい飲みっぷりだった。
喉が潤うのとともに、彼女は少し元気を取り戻したようだ。十七歳の若さで大仕事を任され、プレッシャーも相当大きかっただろう。招待客のざわつきで、精神的にかなり疲れていたはずだ。
「皆さん、ざわついてましたね。まあ、仕方ないといえば仕方ないですけど」
そんな彼女に、僕はあえて明るい調子でこんな言葉をかけた。彼女も僕と同感だったようだが、「これでわたしの務めは無事に終わった」と安堵していた。そして、倒れたお父さまの容態が気がかりで、早く家に帰りたがっているようだった。
彼女はむしろその方がよかったようで、僕は嫌われるどころかより好感をもってもらえたようだった。それ以来、僕は結婚後も彼女のことを「絢乃さん」とお呼びしている。呼び捨てなんておそれ多くて、一生できない気がしているのだ。
――それからしばらく、僕と彼女は他愛もない会話をしながら二つ目のフルーツタルトを平らげた。
その頃になって、彼女のスマホに加奈子さんからメッセージが受信した。そろそろパーティーを締めてほしい、招待客のために帰りの車の手配はしておいた。……まあ、そんな内容だったのだろう。後になって彼女から聞いた内容は、まったくそのとおりだった。
「ママ……、わたしはどうやって帰ればいいのよ」
彼女のこの呟きは、実は僕の耳にも入っていた。加奈子さんが彼女の帰りの手段を伝えなかったのは、きっとわざとだろう。僕がお家までお送りすることになっていたので、それを聞いたお嬢さんを驚かせたくてお膳立てして下さったのだ。
「――ああ、もうすぐ九時になりますね。少し早いですが、そろそろ」
僕は腕時計に目を遣った。ちなみにこの時計は、ブランド物でもなんでもない三千円のものだ。
時刻は九時近くになっていたので、少し早いが彼女を促した。
彼女は僕に頷いて見せ、ステージへ上がっていくとマイクを持ち、会長の途中退出の旨と、閉会の挨拶を会場内の招待客に告げた。
ざわざわと招待客が引き上げていく中、彼女は強張った顔でステージ上から彼らを見送っていた。
相当気を張りつめていたらしく、席に戻ってきた彼女は大きく深いため息をついていた。やっと肩の力が抜けたらしい。
僕はそんな彼女のために、ドリンクバーで冷たいウーロン茶を淹れてから再びテーブルに戻り、彼女の前にグラスを置いた。
「――お疲れさまです、絢乃さん。喉渇いたでしょう? これどうぞ」
「あ……、ありがとう。いただきます」
よほど喉が渇いていたのだろう。彼女はウーロン茶をグビグビと一気に飲み干してしまった。お酒ではないが(未成年なのだから当たり前だ)、惚れ惚れするくらいにいい飲みっぷりだった。
喉が潤うのとともに、彼女は少し元気を取り戻したようだ。十七歳の若さで大仕事を任され、プレッシャーも相当大きかっただろう。招待客のざわつきで、精神的にかなり疲れていたはずだ。
「皆さん、ざわついてましたね。まあ、仕方ないといえば仕方ないですけど」
そんな彼女に、僕はあえて明るい調子でこんな言葉をかけた。彼女も僕と同感だったようだが、「これでわたしの務めは無事に終わった」と安堵していた。そして、倒れたお父さまの容態が気がかりで、早く家に帰りたがっているようだった。