トップシークレット☆桐島編 ~新米秘書はお嬢さま会長に恋をする~
「後部座席なら、もっと広いと思ったんですけど……」
こんなに小さくて貧乏くさい車なら、せめて後部座席に乗ってもらった方がまだマシだったのでは……と思い、さらに言葉を重ねた。
けれど、そんな僕の意に反して、当の彼女はワクワクしているようだった。
「ううん、いいの。わたしがお願いしたんだもの。助手席って、一度乗ってみたかったのよねー」
彼女は楽しそうに、初めて乗ったという助手席の窓から見える外の風景を無邪気に眺めていた。
「へえ……、前からだと外の景色ってこんなふうに見えるのね。面白ーい♪」
そのはしゃぎっぷりがあまりにも可愛いので、運転中だというのについ見惚れてしまいそうになった。……いかん! と自分を律しつつ、運転に意識を傾けながら彼女と会話を続けた。
「――絢乃さんは普段、車に乗られる時は後部座席なんですか?」
僕の素朴な疑問に、彼女は小首を傾げてから答えた。
「そうね……、乗る時はやっぱり後ろの席ばかりかな。もっとも、車に乗る機会自体、あんまりないんだけど」
「そうなんですか?」
意外な答えに、僕は驚いた。勝手なイメージではあるが、〝名家のお嬢さま〟といえば、黒塗りのリムジンなどで、お抱え運転手に送迎してもらうのが当たり前だと思っていたのだ。篠沢家のお抱え運転手だという寺田さんは、その数時間前に見かけたばかりだったし……。
でも彼女の話によれば、学校へは電車通学だし、寺田さんに送迎を頼むなんて申し訳なくてできない、とのこと。……彼女はなんて心のキレイな人なのだろう。使用人のことも家族として大事に思っているなんて。
それに、お父さまが運転なさる車で親子三人でお出かけになる時には、彼女は後部座席で助手席にはお母さまが乗り込まれるのだと。だから、前から見る景色がどんなものなのか見てみたかったのだそうだ。
つまり、この日が彼女にとって〝助手席デビュー〟だったわけである。その栄誉ある運転手の役目を、僕は加奈子さんから仰せつかったのだ。
「そうですか……。じゃあ僕は今、身に余る光栄を賜ってるわけですね」
「えっ?」
「だって、絢乃さんの助手席初体験が僕の車なわけですから」
何を言っているのか分からない、というように首を傾げた彼女は、僕の次の言葉に愉快そうに吹き出した。
「そんな、〝賜ってる〟なんて大げさねぇ。わたしは女王さまでも、お姫さまでもないのに」
心優しい彼女はそう謙遜したけれど、僕にとっては似たようなものだった。彼女は雲の上の人で、それでもこんな僕の運命の人だったから。
童話でシンデレラが王子に恋をしたように、僕もまた絢乃さんという令嬢に恋をしてしまったのだ。
こんなに小さくて貧乏くさい車なら、せめて後部座席に乗ってもらった方がまだマシだったのでは……と思い、さらに言葉を重ねた。
けれど、そんな僕の意に反して、当の彼女はワクワクしているようだった。
「ううん、いいの。わたしがお願いしたんだもの。助手席って、一度乗ってみたかったのよねー」
彼女は楽しそうに、初めて乗ったという助手席の窓から見える外の風景を無邪気に眺めていた。
「へえ……、前からだと外の景色ってこんなふうに見えるのね。面白ーい♪」
そのはしゃぎっぷりがあまりにも可愛いので、運転中だというのについ見惚れてしまいそうになった。……いかん! と自分を律しつつ、運転に意識を傾けながら彼女と会話を続けた。
「――絢乃さんは普段、車に乗られる時は後部座席なんですか?」
僕の素朴な疑問に、彼女は小首を傾げてから答えた。
「そうね……、乗る時はやっぱり後ろの席ばかりかな。もっとも、車に乗る機会自体、あんまりないんだけど」
「そうなんですか?」
意外な答えに、僕は驚いた。勝手なイメージではあるが、〝名家のお嬢さま〟といえば、黒塗りのリムジンなどで、お抱え運転手に送迎してもらうのが当たり前だと思っていたのだ。篠沢家のお抱え運転手だという寺田さんは、その数時間前に見かけたばかりだったし……。
でも彼女の話によれば、学校へは電車通学だし、寺田さんに送迎を頼むなんて申し訳なくてできない、とのこと。……彼女はなんて心のキレイな人なのだろう。使用人のことも家族として大事に思っているなんて。
それに、お父さまが運転なさる車で親子三人でお出かけになる時には、彼女は後部座席で助手席にはお母さまが乗り込まれるのだと。だから、前から見る景色がどんなものなのか見てみたかったのだそうだ。
つまり、この日が彼女にとって〝助手席デビュー〟だったわけである。その栄誉ある運転手の役目を、僕は加奈子さんから仰せつかったのだ。
「そうですか……。じゃあ僕は今、身に余る光栄を賜ってるわけですね」
「えっ?」
「だって、絢乃さんの助手席初体験が僕の車なわけですから」
何を言っているのか分からない、というように首を傾げた彼女は、僕の次の言葉に愉快そうに吹き出した。
「そんな、〝賜ってる〟なんて大げさねぇ。わたしは女王さまでも、お姫さまでもないのに」
心優しい彼女はそう謙遜したけれど、僕にとっては似たようなものだった。彼女は雲の上の人で、それでもこんな僕の運命の人だったから。
童話でシンデレラが王子に恋をしたように、僕もまた絢乃さんという令嬢に恋をしてしまったのだ。