トップシークレット☆桐島編 ~新米秘書はお嬢さま会長に恋をする~
車内ではお二人の気持ちを汲み取り、僕は運転役に徹して一切口を開かなかった。
というのも、斎場を出る少し前に、彼女たちと親族との間で交わされたある会話を僕はたまたま耳にしてしまい、その内容が気になっていたからだ。
『――加奈子さん。我々はあんたの娘が後継者だってことに、まだ納得してないんだからな。振る舞いの席で改めて話し合おうじゃないか』
『あなたたち、まだそんなこと言ってるの!? この子の気持ちも考えてあげなさいよ! 父親をこんな形で亡くして、一番ショックを受けてるのは絢乃なのよ! それに、これはあの人の遺志で決まったことなんだから、今更どうしようもないことくらい、あなたたちだって分かってるでしょう!?』
『いや、そんなことはないさ。会長が正式に決まるには、理事会で三分の二以上の賛成を得なきゃならん。こちらはこちらで対立候補を立てさせてもらうからな。これ以上、あんたら親子の好きにはさせんよ。あんたの婿さんには、グループをめちゃくちゃに引っ掻き回されたからな』 ……
――僕ははらわたが煮えくり返る思いだった。
言うに事欠いて、そんな言い方ってあるか!? 死者に鞭打つというのはこういうことを言うのだと、初めて分かった。
源一会長が生前このグループのため、会社のためにどれだけ尽力してくれたか、どれだけその身を削って働いてこられたのか、あの人たちはまるで分かっていなかったのだ。彼らはその姿を見ることもなく、何の努力もせず、好き勝手言っているだけだった。
絢乃さんはきっと、僕以上に腹立たしかっただろうし、それ以上に傷付いていたに違いない。お父さまのご病気を知って、ご自身のことのように心を痛められていた人だ。
それでも、彼女は泣いていなかった。お母さまとともに、親族と闘うつもりでいるようだった。それなら、僕も微力ながらお二人の力になろうと思った。
「――桐島くん、あなたにお願いがあるんだけど」
僕の決意にお気づきになったのか、加奈子さんが後部座席から僕に話しかけてこられた。
「……はい?」
「夫の火葬の間、座敷で仕出しを振る舞うことになってて。その時に、今後のことについて親族会議をすることになったの。それで、申し訳ないんだけどあなたにも同席してもらいたいのよ。いざという時には、絢乃のことを守ってあげてほしいの」
僕にとってその頼みは、願ったり叶ったりの話だった。もちろん、断る道理はない。
「ムリにとは言わないわ。もし小川さんが同席してくれるなら、彼女に頼んでもいいんだけど……」
「いいですよ。僕なんかでよければ」
僕がそう答えた瞬間、俯いていた絢乃さんがパッと顔を上げられたのが、ルームミラー越しに分かった。
というのも、斎場を出る少し前に、彼女たちと親族との間で交わされたある会話を僕はたまたま耳にしてしまい、その内容が気になっていたからだ。
『――加奈子さん。我々はあんたの娘が後継者だってことに、まだ納得してないんだからな。振る舞いの席で改めて話し合おうじゃないか』
『あなたたち、まだそんなこと言ってるの!? この子の気持ちも考えてあげなさいよ! 父親をこんな形で亡くして、一番ショックを受けてるのは絢乃なのよ! それに、これはあの人の遺志で決まったことなんだから、今更どうしようもないことくらい、あなたたちだって分かってるでしょう!?』
『いや、そんなことはないさ。会長が正式に決まるには、理事会で三分の二以上の賛成を得なきゃならん。こちらはこちらで対立候補を立てさせてもらうからな。これ以上、あんたら親子の好きにはさせんよ。あんたの婿さんには、グループをめちゃくちゃに引っ掻き回されたからな』 ……
――僕ははらわたが煮えくり返る思いだった。
言うに事欠いて、そんな言い方ってあるか!? 死者に鞭打つというのはこういうことを言うのだと、初めて分かった。
源一会長が生前このグループのため、会社のためにどれだけ尽力してくれたか、どれだけその身を削って働いてこられたのか、あの人たちはまるで分かっていなかったのだ。彼らはその姿を見ることもなく、何の努力もせず、好き勝手言っているだけだった。
絢乃さんはきっと、僕以上に腹立たしかっただろうし、それ以上に傷付いていたに違いない。お父さまのご病気を知って、ご自身のことのように心を痛められていた人だ。
それでも、彼女は泣いていなかった。お母さまとともに、親族と闘うつもりでいるようだった。それなら、僕も微力ながらお二人の力になろうと思った。
「――桐島くん、あなたにお願いがあるんだけど」
僕の決意にお気づきになったのか、加奈子さんが後部座席から僕に話しかけてこられた。
「……はい?」
「夫の火葬の間、座敷で仕出しを振る舞うことになってて。その時に、今後のことについて親族会議をすることになったの。それで、申し訳ないんだけどあなたにも同席してもらいたいのよ。いざという時には、絢乃のことを守ってあげてほしいの」
僕にとってその頼みは、願ったり叶ったりの話だった。もちろん、断る道理はない。
「ムリにとは言わないわ。もし小川さんが同席してくれるなら、彼女に頼んでもいいんだけど……」
「いいですよ。僕なんかでよければ」
僕がそう答えた瞬間、俯いていた絢乃さんがパッと顔を上げられたのが、ルームミラー越しに分かった。