初恋グラフィティ
「すみません…。ちょっとお願いがあるんですけど…」
「え?」
灰皿に灰を落としていた恭平さんがこっちを向いた。
「あの…、ユキちゃんのことなんですけど…」
「ユキちゃん…?」
恭平さんは首をかしげた。
「はい…。恭平さん、ユキちゃんとお友達なんですよね…?ユキちゃんのこと、いろいろ教えてもらうことってできますか…?」
私がそう言うと、恭平さんは謎が解けたとでもいうような顔をした。
「何だ…。ユキちゃんて、幸男のことか」
「あっ…!そうです…。すみません、いつもユキちゃんって呼んでるのでつい…」
あわてた私に、恭平さんはにやっと笑った。
「もしかして志保ちゃん、幸男のこと好きなの…?」
「えっ…?!」
顔が真っ赤になるのを感じた。
「へー。わかりやすいな、志保ちゃんて」
恭平さんは手にしていた吸殻を灰皿に押し付けた。
「いいよ…。じゃあ、向こうで話そうか…?」
恭平さんがシャンプー台を指したので、私は首を横に振った。
「あ…、今日はカットだけでいいです…。もう遅いし…」
「そう?」
「はい」
「オッケー。じゃあ、あの席に座ってくれる…?」
恭平さんはそう言うと、今度は1番奥のカット台を指差した。