初恋グラフィティ
「ごめんなさい…!」
恭平さんに写真を差し出し、彼の手を振り解こうとしたとたん、
恭平さんがぼそっとつぶやいた。
「…母さん」
「え…?」
「この写真に写ってるの、俺の母親なんだけどさ…」
「えっ…」
私は手にしていた写真に目を落とした。
そこには確かに恭平さんと彼のお母さんらしき女性の姿が写っている。
「うちの母さん…、実は末期のガンなんだ…」
恭平さんが悲しそうに言った。
「え…?」
とっさに彼の顔を見上げると、恭平さんは私の腕を放しながら言った。
「母さん、医者からもう長くないって言われててね…。今はかろうじて生きてるけど、あと半年もつかもたないかって感じでさ…」
「そんな…」
「志保ちゃんにプロポーズしたのは、早く再婚して母さんを安心させて、死ぬ前に孫の顔を見せてあげたいと思ったのもあったんだ…」
「そう…だったんですか…」
聞いてはいけない話を聞いてしまったような気がして、私は思わずうつむいた。
「だからさ…、俺と一緒になること、本気で考えてくれないかな…?」
「えっ…?」
再び彼を見上げると、恭平さんはとてもさみしそうな顔をしていた。
「頼むよ…」
「……」
私は言葉に詰まってしまった。