初恋グラフィティ

「あ…、えと…」




彼を引きとめてみたものの、いざとなると言葉が出ない。




それでも口が適当な言葉を探した。






「あの…、クリスマス…、結局一緒に過ごせなくてごめんね…」




そんなふうに切り出すと、意外にもユキちゃんは笑顔を見せてくれた。




「いや…、いいよ…、別に…。今日は久々に家族と過ごせたしね…」


「そう…?」


「うん…。志保は恭平の家に行ってたの…?」


「あ…、うん…。実家の方にお邪魔させてもらってたんだ…」


「じゃあ、あいつのおふくろさんにも会ったんだ…?」


「うん…」


「そっか…」




ユキちゃんは目を細めて微笑んだ。




「あいつの母さん、いいお母さんだよな…。いつもやさしくてさ…」


「確かにそんな感じだね…」


「俺も恭平の母さん、昔から大好きなんだよ」


「へー…」


「お母さん、元気だった?」


「あ…、うん…、まあ…」


「…そっか。でももう長くないんだってな…」


「え…?」






“でももう長くないんだってな…”。




…その言葉ですぐに察しがついた。






ユキちゃん、


恭平さんのお母さんがガンだってこと、知ってるんだ…。



< 231 / 393 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop