Xmas Gift ~聖なる夜に~
 次はいつ会えるかわからないし、もう会えないかもしれない。
 これが最後のチャンスになるかもと、そんな思考が頭をよぎり、私は冗談めかしながら「あのころ、先輩のことがすごく好きでした」と当時の気持ちを吐露してしまったのだ。
 
 彼は大学時代からモテモテで、私なんて相手にしてもらえないと思っていたから、告白すらできなかった。
 私は独りよがりに当時の気持ちを消化したかっただけで、その先になにかあるなんて考えもしなかった。

 気が済んだ私は、彼の反応など一切見ずに「ありがとうございました」と笑顔で頭を下げた記憶がある。
 
 立ち去ろうとする私の腕を彼が掴み、「それなら俺と付き合ってみないか?」と言われたときには心底驚いたが、自然と首を縦に振っていた。


 だけど交際したのはたったの一ヶ月で、すごく短かった。
   
 付き合い始めのころから、彼は恋人と別れたばかりだとは聞いていたが、その元カノから妊娠したと連絡が来たらしい。

 彼女は生理が来ないのは過度のダイエットのせいだと自己判断していたらしく、妊娠に気づくのが遅れたそうだ。
 なので、私と交際はカブっていないはず。

 彼の性格上、身ごもった彼女を放っておくなんてできないし、してほしくない。

 私は(いさぎよ)く身を引いた。それでいいと思った。
 彼が今、向き合わなくてはいけないのは彼女とお腹にいる赤ちゃんだから。
 

 ひと月のあいだ、私は憧れだった人の恋人でいられたのだし、それだけで十分だもの。

 落ち込んで毎日しょんぼりなんてしない。
 私はすごく幸せをもらったから、彼にも幸せになってもらいたいと心から願っている。

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