The tear
人は誰しも透明人間である。例えそれが芸能人や政治家といった有名人であったとしても……。

幼い頃、紺野空(こんのそら)はそのようなことが書かれた本を読んだことがある。読んだ時、空はこの言葉の意味がわからなかった。有名人ならば、テレビなどで多くの人に見てもらえてちっとも誰からも見えない透明人間などではない。

しかし中学三年生になった頃、空はその言葉の意味がわかった。

全世界にいる人口は78億7500万人。空はその中の一人でしかない。

生きているうちに78億人全員と関わることはない。関わらない人間にとって、空はいてもいなくても変わらない。透明人間と同じなのだ。

埃まみれの中学校の制服を着て、暗い顔で空は学校へと向かう。周りを歩く他校の生徒たちは友達と楽しそうに話しているが、空は一人だ。誰からも声をかけられることがなく、透明人間のようだ。

ぐちゃぐちゃの空の心が、ぐちゃぐちゃの感情で傷付けられていく。空はボロボロにされた通学かばんを握り締める。
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