夏の風


丈流くんはどんどん近付いてくるのにあたしは涙で目が霞んで、その姿をしっかり捕らえることが出来ない





「亜耶……」



丈流くんの声があたしの耳に届く




「…たけ…るくん…ック…どうして…」




「亜耶…色々ごめんな…
優里の妊娠が…嘘だったんだ」




「えっ…」




丈流くんの手があたしの頭に触れる




本物だ…




その手がスルリとあたしの頬に降りてくる




生暖かい風があたし達を包み込む




「優里の妊娠が嘘だとわかったのが、結婚式の前日の昨日だった…
優里が、自分から言い出した…

『丈流の愛が欲しくて嘘をついた』
…と、『でも丈流の心はあたしには向いてない…やっとわかった、こんなことしてもあたしは幸せになれない…丈流を解放する…』
と…最後は笑顔で、リスカットもしないと約束して別れた」









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