Re:ha:Next step study ~鬼指導教官にもっとやられっぱなし?!



今ここにいる3人の中で一番冷静だった絵里奈のその声。
彼女が見つめているほうへ、つい目を向けると、


“岡崎先生~、発表、急いで!!!”

“発表、楽しみです!頑張って下さい!!!!”

“今日、懇親会、行きますよね?”


岡崎先生は彼の発表を待っていた人達に囲まれてもみくちゃにされかけていた。


「すみません、急いでいるんで・・・」


5か月ぶりに聞く彼の声。
走ってきたせいなのか、なんだか酷く疲れているように聞こえる。

さらに彼の走る姿があたしの視界の中でもどんどん近付いてきて
もう隠れる時間も場所もないと観念したあたしは彼をしっかりと見つめてしまった。


「・・・(真)・・・(緒)・・・・」


手の届きそうな距離から聞こえた、彼の小さな声。
まるで心の中で、あたしを求めて叫んでいるのが聞こえてしまったかのようなその声。

その声によってあたしは反射的に彼の瞳を窺ってしまった。
彼のその瞳は一瞬大きく揺れた。
でも、すぐにまっすぐにあたしを射抜いた。
あたしに “大切な好きという想いを、去年選べなかった想いを今を選べ” と言ったあの時を同じように。


「岡崎先生、急いで下さい。発表開始予定時刻まであと2分切りました!!!」

「今、行きます。」

すれ違い様にさっきよりも大きく聞こえた彼の声。
しかも、さっきのような酷く疲れた声ではなく、ちゃんと活きている声で。


「こちらの出入り口からお入りください!」

「わかりました。」


すれ違った後、会場誘導スタッフとともにあたしの視界から消えた彼。



一瞬だけど彼の視界に入ってしまった
でも、彼はたくさんの人に注目されている人らしい
だから、あたしの中でまた遠い人になってしまった

彼とお付き合いする前は、作業療法士としての彼の才能の凄さによって、彼を雲の上の存在と思っていた
だから、再びその頃のあたしに戻ればいいだけ


「真緒!!!!!」


すれ違った後、もう会場に入ったと思っていた人の、あたしを呼ぶ声。


今、振り向いたら
あたしの憧れで、遠い存在に戻ったはずの彼のことを
また自分の心の一番近くにいる人に戻してしまう

ダメ
反応しちゃダメ


「真緒!!!! これが最後だ。俺からは。」


その人の、その叫び声がした瞬間。
あたしの足元に、紙飛行機が飛んできた。


・・両手のひらの上にのるサイズの紙飛行機
・・これが最後だ


彼の考えていることがピンとこなかった不器用なあたしは、すぐさまその紙飛行機を拾い、とうとう振り返ってしまった。

その時、あたしの視線の先にいたのは
明らかに急がなきゃいけないはずなのに、穏やかに笑みを浮かべゆっくりと頷く岡崎先生だった。


< 89 / 103 >

この作品をシェア

pagetop