Re:ha:Next step study ~鬼指導教官にもっとやられっぱなし?!
《岡崎クン!!! 何かやらかした?》
《もしかして彼女?》
会場を後にしてからも、その付近ではハンドセラピィの関係者が多くいるせいか、その人達に取り囲まれそうになる。
「すみません、急ぐんで、また今度!」
あたし達はその人達も振り切るぐらいの全速力で廊下を駆け抜け、ようやく逃げ切った先は研究会スタッフ以外立ち入り禁止エリアだった。
「はあ~、やっと振り切ったな。」
『・・・・・・・』
久しぶりに無我夢中で走ったせいで息ができない
「大丈夫か?真緒?」
『・・・大丈夫・・・じゃないですよ・・・』
「ごめん・・・こんな騒ぎに巻き込んでしまって。」
久しぶりに会ったのに
しかも、ついさっきまで遠い世界にいたはずの岡崎先生が
すぐ手が届く距離にいる
しかも、さっきまで堂々とプロポーズに近い交際宣言した人が
あたしの息切れを心配する距離にいる
しかも、ごめんってあたしに謝っているのに、なんだか嬉しそうな顔をしている彼が・・・
もう尋常なんかではいられないあたし
『もう、現実なのか、夢なのか、わからなくなっちゃったじゃないですか・・・』
「そうか・・・」
岡崎先生の傍にいる今
本当は嬉しいはずなのに、八つ当たりしてしまう残念なあたし
でも止められない
目の前の彼がなんでも受け止めてくれそうな顔をしているせいだ
『それに、記入済みの婚姻届を・・・それを紙飛行機にして飛ばす人、います?』
「・・・いない・・いや、いる、ここに。」
『これ、岡崎大輔さんって、岡崎先生のお父さんですよね?しかも、うちのお父さんの名前まで記入されているものを紙飛行機にしちゃうなんて・・・他人のところに飛んで行って持ち去られたらどうするんですか?』
「・・・他人のところになんか飛んでいかない。真緒のところにしか飛ばない。俺の願いがめいいっぱい詰まっている婚姻届だから・・・真緒のところ以外に飛んでいくはずがない。」
どこから来るの、その自信は・・・
悔しい、ホントに悔しい
彼と離れていた5か月
彼から音沙汰がなかったせいで、あたしはフラれたと思っていたのに
こんなにも凄い研究をしていて
この他にも学生実習指導や松浦先生の外部仕事まで請け負って
おまけに海外の学会でも発表していたらしいのに
お互いの両親から、婚姻届の保証人欄への署名までさせて
こういう事後報告って
さすがにダメでしょ!
「真緒?なんか俺、間違ったことを言った・・・か?」
学生の頃から、目の前にいるこの人に
無理難題、無茶ぶりは日常茶飯事
大学を卒業してからは
たっぷりどっぷり甘やかされて
散々やられっぱなしだったけれど
今回のこれはさすがにダメでしょ?
『不合格です!!!!』
あたしは、手に握ったままだった折り目だらけの婚姻届をすぐそこにあったベンチの上でもう一度広げ、鞄の中にあった3色ボールペンの赤いペン先で大きな×印を書いた。
日詠先生に、自分と似ていて不器用と言われた岡崎先生が記入した婚姻届に。