買われた娘は主人のもの
 食事終わりに部屋に入ってきたメイド、コリーンにそんな食事風景を見られ、すぐに彼女はエイミの表情を見てその気分を悟ったらしい。

 執事長のテイルが無言で出ていくとすぐに、コリーンは苦笑いでエイミに弁解した。

「泣かないの…。テイル様に悪気は無いのよ、そういう方なの」

 そして一人小さな声で愚痴てため息をつく。

「…仕方の無い方ね…ご自分でもよく分かっていないんだから…」

「…。」

 確かにあの執事長に悪気は全く無さそうだった。
 主人にエイミをペットとして扱うよう言われていたのかもしれないが、もしかしたらあの主人同様、彼自身も変わっているのかもしれない。

「…あ〜、私にも妹がいたらこんなだったかしら。小さい妹がいたら、私が身体を洗ってあげるのが夢だったのよね」

 コリーンは先ほどの空気を振り切るように楽しげにそう笑ってから、まだ涙を拭いているエイミに向き直る。

「私はあなたをペット扱いしたんじゃないのよ。それに、御主人様も教えて下さらなくて、あなたの名前を知らないんだもの。二人きりのときくらいは名前で呼ぶわ、誰にも内緒でね」

 そう言われ、エイミはようやく気が置ける相手ができたような気がした。

「…私、エイミです…よろしくお願いします、コリーン様…」

 ようやくふわりと笑いはにかみながら名乗る彼女に、コリーンは目を輝かせる。

「ふふっ、照れちゃって…!た、だ、し、二人きりのときだけよ。…あの手のタイプは、自覚すると嫉妬深いんだから…」

 コリーンはまたそう小声で付け加えたのだった。



 執事長は日中に一、二度、メイドと働いているエイミの様子を見に来た。
 短時間ではあったが、触れることも無くただじっと彼女の様子をしばらく見つめると去っていく。

 コリーンはテイルが去ると楽しげにニコニコと笑うが、エイミにはなぜ彼女が笑うのか分からなかった。
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