買われた娘は主人のもの

『私』らしい私

 娘の『役目』のための支度時間。

 夕刻に軽食を摂らされたエイミは、メイドのコリーンに浴室で身体を磨かれていた。

「慣れることないわよ?」

 コリーンに突然そう言われ、エイミは泡だらけの身体のまま首を傾げる。

「え…?」

 コリーンは外にいる大男に聞こえないようにするためか、小声になりエイミの名を呼ばないまま続ける。

「…あなたほど嫌がり続ける│娘《こ》は珍しいもの。変わっているとはいえ、あのお金持ちの御主人様に媚びを売らないなんて、私はそういうの好きよ?今のままでいいわ、あなたらしくて」

 エイミはすぐに、コリーンは主人との夜の『役目』のことを言っているのだと分かった。

「…御主人様には、申し訳ないと思っています…でも…」

 エイミは小声で返し、下を向いた。

「良いのよ。いくらなんでも、そのうちあの方にも分かるわ。…あなたにもね」

 コリーンは澄ましてそう言うと、エイミに向き直り身体の泡を流す。

「さ、終わりよ。バラド様が待っているわ」


 寡黙な大男バラドに引き連れられ、部屋に押し込まれたのはこれで三度目。

 昨晩自分は主人の機嫌を損ねてしまった。

 コリーンはそのままで良いと言っていたが、主人を怒らせてしまった態度を今日も取るわけにはいかない。

 しかしエイミにとって自分の『役目』は苦痛であり、さらに扱いは主人のペット同然であるという耐え難いものだった。

 どうすればいいのかを考えているうちに主人はやってきた。
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