買われた娘は主人のもの
 どのくらいの時が経ったのか、主人はエイミからそっと身体を離す。
 そしてじっと見つめてから、

「もう眠れ」

そう冷たく言い放ち、主人は部屋を出ていった。

「…御主人様…」

 昨晩のように、もっと強く抱きしめられると思っていた。主人は罰だと言っていたのに…

 エイミは言われた通りベッドに入り直し、まだ混乱し、落ち込んで眠れない気分をなんとか鎮めながら目を閉じた。



 朝、コリーンはベッドしかない物置部屋に入るとすぐに、ベッドの端に座り込むエイミに声を掛ける。

「…エイミ?」

 コリーンの声は不安気だった。

 コリーンによると、朝食を部屋に運んだ際に主人の機嫌は良くなかったらしい。
 目を瞑り、指を落ち着きなく何度もテーブルに落とし、いらついたような雰囲気でコリーンに対して受け答えていたと彼女は言う。

 主人のその態度を見て彼女なりにエイミを心配したのだろう。

「…コリーン様…私、また御主人様を…」

 エイミは落ち込んだ気分のまま昨晩のことをコリーンに打ち明け、話を聞いた彼女は笑顔に変わった。

「…ふふっ、それじゃ仕方ないわよ。あなたのせいじゃないわ」

 コリーンは言い、話をしていた時間を挽回するためかいつもよりも手早く部屋の掃除を続ける。

「…。」

 彼女の答えを聞き、支度をしながら考えるが、エイミにはどう考えても自分のせいとしか思えない。

「…まさか、御主人様からそれ以上が欲しかった?」

 手を動かし、そちらも見ずにコリーンは楽しげにそう尋ねる。

 エイミにとって『役目』は苦痛。
 まして自分にとって主人は、何を考えているかも分からない冷たい相手だった。

 それ以上、ということは、役目だけでなく役目以上の罰ということのはず。

 エイミは下を向いたまま激しく首を横に振る。

「…そんなに嫌なの?手強ぁい…!道は遠そうね〜…」

 振り返りそれを見たコリーンが大げさに言った。
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