買われた娘は主人のもの
 テイルとバラドがこのあと仕事に掛かるよう促し部屋を出ていくとすぐに、コリーンは苦笑しながら言う。

「…お子ちゃまねぇ、エイミは…」

「私、すごく嬉しいです…!テイル様が私を気にしてくださるなんて…。本当に、可愛い!!」

 エイミは笑顔でぬいぐるみを抱きしめる。

「良かったわ、エイミの笑顔が見られて。…あの方も甲斐があったんじゃないかしら…」

 コリーンはそんなエイミを温かく見ながら手早く掃除を始めたが、一人何かに気付き独り言をする。

「…でもそれってすごいことなんじゃ…あの方が誰かに贈り物だなんて…」

 そんなコリーンをエイミは気にすることもなく、ぬいぐるみを優しく撫でながら言った。

「あなたの名前は後で決めてあげる。私はお仕事に行くからね」


 エイミは、テイルからもらったものならば主人に報告をしなければと思った。
 しかし一番にぬいぐるみの報告をしなければならないであろうはずの主人は、今日もまた出掛けているらしい。

 確かにぬいぐるみの許可が気がかりではあったが、エイミはその日、いつもよりもずっとウキウキとした気分で仕事ができた。
 屋敷の他の者たちと会ってもにこやかに挨拶をし、気分も軽く一日が過ぎていった。


「コリーン様!あの子、『リュカ』ってお名前を付けました!!よろしくお願いします…!」

 湯浴みの時間、唐突なエイミのその言葉にコリーンは驚く。
 いつもの入浴前の『お願いします』の挨拶のあと、エイミは口を閉ざしていたからだった。

「…まさかあなた、ずっとそれを考えていたの!?ふふっ、あなたって…ふふふふっ…!」

 コリーンはエイミを磨きながら声を殺して笑う。
 エイミは目を輝かせたままコリーンを見つめて返した。

「お名前、一生懸命考えたんです。テイル様がくださったものですから」

「無邪気ねぇ」

 コリーンは笑いながらエイミの頭を撫で、そのあと浴室を出るよう促した。


 バラドは何を考えているのかも分からない無表情のまま、エイミをいつものように部屋へ誘導する。

 バラドも、エイミが抵抗することはないと分かったのか、最初の頃のように引きずって部屋へ行くこともなくなった。

 エイミはバラドへの警戒心が自分の中で少しだけ薄れた気がした。
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