買われた娘は主人のもの

『彼』の許可

 エイミは部屋に入るとベッド端に置いたぬいぐるみのそばに行く。

「あなたはリュカよ。御主人様に、今から一生懸命お願いするから…!」

 ぬいぐるみに向かって口早にそう言うと、縛られた手で、座らせてあったぬいぐるみの横腹をそっと小突いて寝かせるようにした。

 ぬいぐるみはクタリと身体を横たえ、偶然にもベッドに顔をうずめるように目を覆う。

「…ごめんね、今からはあなたにも見せたくはないから…」

 エイミは主人にぬいぐるみの許可をもらうための覚悟を決めた。


 主人がやってきた。

「…御主人様…ようこそ、お越し下さいました…」

 エイミは前にコリーンが、滅多に来ない屋敷への客に対して言っていたこの言葉を真似て言う。

 主人はエイミを見つめたあと、ベッドの端に置かれているぬいぐるみを一瞥する。

「…それはテイル様に頂きました…すぐにご報告できず、本当に申し訳ありません…。御主人様に、このお部屋に置かせてもらう許可を頂きたいのです…どうか…!」

 彼に許可がもらえなければ、いくらせっかくのテイルからの贈り物だったとしても破棄されてしまうかもしれない。
 エイミは必死に願った。

 無言の主人はゆっくりと下を向く。
 そして、

「…そうか…」

と、呟くようにそう言った。

「…。」

 エイミは主人の答えが気になり思わずじっと見つめてしまう。
 すると主人もこちらを見てようやく頷いた。

「…許可する」

 その主人の言葉に、エイミは緊張が少しだけ解け、にこりと微笑む。

 表情は分からないが、主人は笑顔に満足したのか目を細めてエイミの頬を撫で、今宵もベッドへと│誘《いざな》った。
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