買われた娘は主人のもの

傾き始めた心

 朝にやってきたコリーンはエイミの姿を見ると、心配そうに顔を歪めた。

「エイミ…何があったの…?目が赤いわ。挨拶の声も嗄れているし、酷く疲れているみたい…。役目のせいだけじゃ、ないわね?」

 主人に朝食を運んだはずのコリーンは何も知らないらしい。
 エイミは何も言う事ができずにベッドの上に座り布団にくるまったまま下を向き、首を振るばかり。

 コリーンはエイミの身体に替えのタオルを巻き、近くにコップの水を置くと、屋敷の者たちに娘を休ませると伝えてくる、と言って部屋を出ていった。


 しばらくすると戸が開き、コリーンが姿を現す。そして、

「…テイル様がいらっしゃったわ。私は行くわね…」

 それだけエイミに伝えるとコリーンは行ってしまった。

 エイミは昨晩のこともあり、さらにテイルを意識するようになってしまっていた。

 主人の誤解の種であったテイルになど、申し訳も立たず顔も合わせられない。しかし買われた身である自分が意見などできるはずも無かった。


 テイルは何故か辛そうな表情のままゆっくりと部屋に入ってくると、エイミにそっと頭を下げる。

「…許せ…」

 エイミは、テイルが自分のせいで主人から罰を与えられたことを知り謝っているのだろうと思った。

「いいえ…!御主人様がなんと仰ったのか、テイル様がどこまでご存知なのか分かりませんが、テイル様のせいじゃありません…!!私が、しっかりと御主人様に説明できなかったから…」

 しかしテイルはエイミを抱きしめ、そのまま呟くように続ける。

「…私は、なんとお前に謝ったらいい…?まさかこの私が…。…許せ…」

 下を向いたまま苦しげに謝り続けるテイルに、エイミは胸が熱くなった。
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