買われた娘は主人のもの
 こうしてセッティングされたテーブルにはなぜかエイミの食事が載せられ、エイミは主人と向かい合わせて座ることになった。

 この屋敷に来て初めてのテーブルと椅子に、まさかの主人と二人きり。
 まして小さなテーブルに主人と飼い犬同然の自分が向かい合わせなど、普通あっても良い事なのかも分からない。
 気持ちは全く落ち着かなかった。

 エイミのすぐ隣りにある椅子には犬のぬいぐるみが置かれている。これはコリーンの配慮のおかげだった。
 エイミは主人の目が届かないテーブルの下で、抱きしめる代わりにぬいぐるみの足をそっと握る。

「…気に入っているのか?隣に置いておくほど」

 主人に言われ、エイミはすぐにぬいぐるみのことだと分かった。

「っ…はい…テイル様に、頂いたものですから…」

 エイミは下を向いたまま、しどろもどろにそう返事をする。
 そして主人の様子をチラリと見て何も言う様子が無いのを確認すると、手を組み合わせて祈り、恐る恐るスプーンを手に取り食事を始めた。

 主人は何も言わずじっとエイミの食事の様子を見ていたが、

「お前は、テイルを愛しているのか…?」

 突然そう切り出した。

 エイミは驚き、当然手は止まる。

 愛している。
 そうなのだろう。自分を気に掛け、馴れない屋敷での生活に怯えないようにとぬいぐるみをくれたテイル。
 それがどんなに普通とはズレていようと、それは彼なりの気遣いだったと気付いた。

 自分を膝に乗せて食事をさせたのも、きっと彼なりの、愛情表現だったのだろうとエイミは思っている。
 それがたとえ、『飼っている子犬』などと同類にした愛情だったとしても、彼を意識した自分の気持ちは止まらないのだから。

 しかし主人にそのように言う訳にもいかず、エイミはぬいぐるみの足を握って下を向き、黙るしかなかった。
< 50 / 67 >

この作品をシェア

pagetop