買われた娘は主人のもの
 食事を終えたエイミを確認すると、主人はゆっくりと部屋を出ていった。

「…御主人様、ありがとうございました…」

 エイミは頭を下げて主人を見送る。
 そして鍵がかけられた音を確認してからベッドの端におとなしく座り、また先ほどあったことを考えた。

 テイルからもらったと思っていたぬいぐるみは、もしかしたら主人からのものだったのかもしれない。

 しかし主人は、自分がぬいぐるみの許可を得るときに否定をせず、テイルも何も言わなかった。
 あの主人ならばすぐにでも訂正し、贈られた相手を間違えた自分に罰を与えようとしてもおかしくはなかったはずだとエイミは思った。

 それにぬいぐるみの名は、誤解があったあの一件のときに呟いた一度きりしか主人にも聞かせていない。

 屋敷で最下級である自分の言ったことを、あの主人がしっかりと覚えていたことが気になっていた。

 先ほどコリーンは『ぬいぐるみ』と言っていた。

 コリーンは屋敷内で若手でも優秀なメイド。
 必要なこと以上を主人に報告するはずはない。

 コリーンが言わなかったということは、ぬいぐるみに付けた名前など主人にとっては重要ではないと思っているに違いない。ましてコリーンがわざわざ主人に教えるはずはないのだから。

(知りたい…でも、何て言って御主人様に尋ねたらいいの…?)

 エイミはコリーンのやってくるしばらくの間、ずっと悩み続けた。
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