買われた娘は主人のもの

真実を知ること

「っ、そんな…!!テイル様は、そんなこと…」

 エイミが反論しようとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえた。

「…私が、そんなことを思わなかったと…?」

 エイミを抱きしめたままのはずの主人。
 しかしそこから聞こえてきたのは、エイミが慕い、愛した男の声だった。

「…テイル…さ、ま…?」

 エイミはまだ目隠しをされたまま、身動きも出来ずにいる。

「…まだ、分からないのか…?」

 テイルの声がそう言うと、エイミの目隠しはゆっくりと外された。

 主人がいる。
 いつもの無表情の面を着け、こちらを見ている主人が。

「…エイミ…」

 いつも通りの仮面に遮られたくぐもる低い声で、教えてもいないエイミの名を呼ぶ。
 しかし次の瞬間、主人は自身の面に手を掛けた。

「!!」

 そこに現れたのは、部屋のほのかな明かりに照らされた、悲しげな表情のテイルだった。

「…なぜもっと早く分からない…?私が主人だ…お前を買ったのも、お前を奪ったのも…」

「…。」

 エイミは混乱し訳も分からずテイルを見つめている。

「どんなにお前が欲しかったことか…。屋敷の者たちは知っているようだが、黙っているだけだ…私が主人であることを…」

 エイミは首を横に振りはじめる。
 次第に、現実を振り払うように激しく…

 夢だと思いたかった。
 あんなに自分が嫌った主人が、まさか自分の好きになったテイルと同一人物だったとは。

 屋敷の者たちは皆わかっていて、自分は全く気付きもしなかったのだ。

 こんなにも自分の想いが強くなってから気付かされ、エイミは大きく混乱した。

「…い、嫌…嫌あぁぁぁ!!」

 エイミはパニックを起こしたように叫び、強く身体を揺らした。

「エイミ…!」

 彼は縄で傷付き始めたエイミの手を急いで外し、エイミの腕を動かさないよう手で押さえた。

「お願いだ…手が傷ついてしまう…!エイミ、私が憎いか…?どうしたら、今までのことをお前に償える…?」

「嫌ぁ…!!聞きたく、ありません…!!もう、もう何も…!!」

 エイミは何も言うことができず、泣きながら激しく抵抗を続ける。

 彼は悲しげな表情のまま、抵抗するエイミの腕をそっと縄で縛り直しベッド柵に固定して、面を着け直して部屋を出ていった。
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