買われた娘は主人のもの
 大粒の涙がいくつも頬を伝ってベッドを濡らす。

 信じたくはなかった。

 冷たい言葉で自分を奪い、強く抱きしめて罰した主人。
 自身の膝に乗せて食事をさせ、子犬の扱いをした執事長。

 執事長であるテイルに口付けられ、主人に『笑え』と言われ、怯え泣けば強く抱きしめられ、子犬のぬいぐるみを贈られ…

 彼自身の本心がどちらの姿のときにあったのか、エイミには分からない。
 今でも同一人物だったとは信じられず、信じたくもなかった。


「っ、エイミ…!!」

 コリーンが部屋に駆け込んできた。
 しかしエイミは叫ぶ。

「っ、出ていって下さいっ…!!誰にも、会いたくありません!!手を外したら、私は死にます…!!」

「…エイミ…」

 コリーンは泣きながら、部屋を走って出ていった。

 手を縛られベッドに寝たままのエイミは、もう何も考えたくなかった。目を瞑り、何も考えないようにしていつしか眠りに落ちた。



 エイミは、次の日もその次の日も部屋にこもったまま。

 コリーンが来れば言葉で追い出し、食事も摂ろうとはしなかった。

 眠ってもう二度と目を覚ましたくないとまで思った。

 きっと主人はテイルの姿で自分をあざ笑っていたのだろう。自分を傷付け続け、自身の暇を潰すために…欲のために…

 そう思うと、また頬を涙が伝った。


 そしてその状態のまま三日目。
 眠っていたエイミの耳に、優しい声が聞こえた気がした。

「解放しよう、エイミ…。自由に生きて…私を憎み、そして、忘れてくれ…」
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