買われた娘は主人のもの

屋敷からの帰還

 目を覚ますと、エイミは自宅の両親の目の前にいた。

「お父さん…?お母さん…?」

 まだぼんやりしたまま幼い頃から馴染んだベッドに身体を横たえるエイミを、両親は泣きながら抱きしめる。

 いつも付けていた革のチョーカーも無く、自分が着ているのはいつも朝に支給されていた洗いたての薄いワンピース。
 自ら作った縄の擦り傷には薬が塗られていた。

 聞けば馬車に乗った主人が朝に突然ここへやってきて、

『この子犬は役立たずだ。私がどんなに身体を奪おうと泣くばかり。だいぶ痛めつけてやったが、もう飽きた。子を身籠らせてやらなかっただけ良いだろう。子犬は返す』

そう言ったという。

「…そんな…違う…違うの、お父さんお母さん…!!御主人様は…」

 エイミはその時ようやく、自分に対して主人が、冷たかったばかりではなかったことに気付く。

(…テイル様の姿じゃなくたって、御主人様が私に優しくしてくれたことはあった…)

 思えば最後に『テイル』が自分の名を呼び謝罪をしたのも、このようになる事が分かっていたからではないだろうか?

 自分を心配してくれていた彼は『一人』なのだから。

 離れてから思うことはたくさんある。
 聞きたいこともたくさんあったにもかかわらず、それを拒んだのは自分。

「…御主人様…」

 テイルの姿だろうと主人の姿だろうと、彼はエイミを想うようになっていたのかもしれない。

 現にどちらの姿でも始めの頃以外、両親に言ったという自分を痛めつけるようなことはしなかった。
 自分に優しく微笑んだあの二つの姿に、偽りはあっただろうか?

「…テイル様…御主人様…!!」

 エイミは何も分からず困惑する両親に謝ると、まだふらつく身体をなんとか支えながら家を飛び出し、暗い夜道を走りだした。
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