買われた娘は主人のもの

彼のもとへ…

(御主人様が私を、あの姿でも愛してくれていたのか…御主人様から聞きたい…!!)

 暗い夜道。
 物につまづき、悪路に足を取られながらエイミは走り続けた。

 エイミは走って走って、馬車でしか行き来したことがない道を、ようやく初めて自分の足で屋敷の門の前に辿り着いた。

 しかし、部屋で動かずにいたとはいえ三日も何も食べずの状態でいたエイミは、門を開くことも出来ずにその場に倒れ込む。

「…エイミ…!」

 誰かの声が聞こえた気がした。自分を見つけてくれた者がいるのだろう。
 エイミはその姿を見ることもなく気を失った。



「…エイミ…!エイミが起きてくれた…!!」

 気付けば目の前にいたのはコリーンだった。
 日は昇り始めたらしく、窓からは朝の日差しが差し込み始めている。

 コリーンは泣きながらすぐにエイミを抱きしめ、まだ温かい、細かく柔らかいベーコン入りのパン粥を勧めた。

「食べて、エイミ…!お願いよ…『お姉ちゃん』を心配させないで…!」

「…コリーン様…」

 コリーンは疲れ切った様子だった。
 しかしかなり心配した様子で、エイミの身体をゆっくりと起こして自身の身体で支えると、エイミの口に少しずつパン粥をやった。

 気付けば自分の身体は清潔なタオルに包まれ、しっかりといつもの部屋のベッドに収まっていた。

「…ごめんなさいエイミ…お屋敷では暗黙の了解だったの…私の口からも言えずに、本当にごめんなさい…」

 ポツリと小さな声で謝罪するコリーン。

 当然、コリーンにしてもテイルのことは知っていたのだ。しかしこれだけ面倒見の良いコリーンが、わざとエイミに黙っているはずがない。
 だからコリーンは、『テイルの全てを好きになれるか』とエイミに聞いたのだろう。

 そうなれば主人自身もエイミに、言うに言えなかったことに違いなかった。


 コリーンは休ませながら、まだ粥を口にできるかをエイミに聞きつつ懸命に様子を見ていた。

「…コリーン様…ありがとうございます…ごめんなさい…」

 疲れ切った様子にも関わらず自分を甲斐甲斐しく診てくれるコリーン。
 自分は騙されたと思い込んでいたが、今はコリーンの優しさが身に染みる。

「いいえ…いいのよ、エイミ…」

 コリーンの細い身体に支えられたまま、エイミは粥を食べ続ける。
 ここにいない主人のことは気になるが、今は自分を心配するコリーンの優しさに甘えることにした。
< 60 / 67 >

この作品をシェア

pagetop