買われた娘は主人のもの

部屋の外の会話

『バラド様…!』

 ドアの外で、コリーンの声が微かに聞こえる。
 一人きりの室内では厚い扉の外の声でも何とか聞こえることを初めて知った。

 当然のことながら、部屋の外ではバラドがずっと張っていたのだろう。

『お願いします…娘の見守りを、私に代わっていただけませんか…?』

『ダメだ』

 バラドはすぐさまコリーンに答える。

『お願いします…!娘に何かあったら、すぐに行ってやりたいのです…!!』

 コリーンのそんな願いにも、バラドはきっぱりとした口調で言い切った。

『お前ではダメだ、御主人が言っていただろう。もし娘が命を絶とうとしてみろ。お前は力で止めきれるのか?だから最初から俺が常に見張りにいるのだ』

 扉越しに聞こえる二人の会話を聞いてエイミは、自分の知らなかった事実に驚いた。

(…御主人様が、私を死なせないために…)

 初めて知るバラドの見張りの意味。

 だから危険なバスルームの外にも、エイミが一番嫌がっていた『役目』の誘導の時にも、常にバラドがいたのだろう。

『…バラド様…どうか…!』

 コリーンの必死な声。
 バラドは珍しく諭すようにコリーンに言い聞かせた。

『娘の役目の際は主人以外この辺りは立ち入り禁止になるが、今は部屋に娘一人。なぜ戻ってきたのかもまだ分からない。娘は動けない様子なのだろう?コリーン、お前は寝不足のうえ看病でも疲れている。大人しく寝ていろ』

 そして部屋の外の会話は止んだ。

エイミは自分が役目の時にも、部屋の外には誰かが行き来しているものだと思っていた。
 しかし今の話を聞けば、全くそうではなかった。

 それはもちろん最初は彼自身のためだったのかもしれない。
 しかしあの主人がテイルだったことを思えば、自分のためにも気を遣い、この部屋に人を近付けなかったのかもしれないと思った。

 そして当初一日中エイミを見張っていたバラド。
 しかしコリーンとともにいるエイミを、主人自身もテイルの姿で見て判断し、見張りを緩めさせたのだろう。
 主人に忠実なバラドが自身でそう判断するはずはない。

 主人が最後にこの部屋を訪れた際にエイミの手を縛り直したのも、強く抵抗をしたエイミを見て自身を傷付ける危険があると思ったからに違いなかった。

 主人が何かとよく自分を見ていてくれたことに、エイミは今やっと気付いた。

「っ…御主人様…」

 エイミはベッドにうずくまり、主人を想った。

「会いたい、御主人様…教えて…」
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