買われた娘は主人のもの
 彼は寝そべるエイミを抱きしめ、そのまま崩れた。
 主人の面が剥がれ落ちる。

「…諦めるつもりだった…冷たく言えば、私を嫌い忘れるようにするだろう…。そうすれば私もきっと諦めが付く…そう考えていたのに…それなのに戻ってくるなんて…!」

 涙を│堪《こら》えているのか身体は震え、声は絞り出すようだった。

「お会いしたかったから…御主人様に、たくさん…!!やっと、聞けました…それなら、やっと私も言えます…」

 エイミは主人に抱きしめられながら告げた。

「御主人様のことが、好きです…お慕いしています…!『リュカ』を頂いて、私はとても嬉しかったです…!」

「…私も悪かった…『主人』だからといって何も打ち明けなかったばかりに…」

 主人は少しの後ようやく身体を離し、『テイル』と同じ不器用な笑みでエイミを見つめた。
 そしてエイミのぬいぐるみを│傍《かたわ》らに置く。

「御主人様…」

 エイミがそう呼ぶと、彼は苦笑いをして首を振る。

「仮面が無いときは『テイル』と。主人の姿では、まだ素直にはなれないんだ…」

 そう主人は仮面の姿では基本、周りに冷たく接していた。
 エイミが両親と暮らしていたときでさえ、ここの屋敷の主人は仮面を着けた冷たい人間だと噂を聞いていたほど。

「…聞いても、いいでしょうか…?なぜ御主人様はテイル様なのですか…??」

 エイミの言葉を聞いた彼はまた下を向き首を振った。

「…昔の愚かなわがままから出来た、他愛もないことだ。だがお前には教えよう…」

「ありがとうございます…!決して誰にも言いません」

 彼はそれを聞き、頷いた。
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