買われた娘は主人のもの
 しばらく見ていると、メイドであるコリーンが外で履くには似つかわしくない、脱ぎ履きのしやすそうな軽装な靴を履いていることに気付く。

 この屋敷自体が外靴では入らない場所なのかもしれない。だとすると屋敷に入る際と今も自分が裸足であることに、なんだか納得がいった。

 コリーンは手早く掃除を終えると、清められた床の真ん中に暖かそうな敷物を置く。
 それは一人が寝転がれそうなほどの大きさのものだった。

 テーブルすらも無い部屋にベッドと敷物だけが置かれ、いくら世間を知らないエイミでも何だか違和感を覚えた。


「コリーン、掃除は出来たか」

 昨日の大男バラドが、ノックもせずに部屋に入ってくる。

 部屋の隅に立って縮こまっていたエイミと、掃除用具の状態を見ていたコリーンがそちらを見た。

「はいバラド様、抜かりなくですわ」

 コリーンはバラドの前に進み出て、澄まし顔でうやうやしく頭を下げた。

「…これはなんだ」

 バラドが部屋の真ん中に置かれた広めの敷物にやはり目をやる。
 どうやら敷物は、彼女の考えだけで置かれたものだったらしい。

「それはもちろん、テイル様へのご配慮です」

 コリーンは笑みを浮かべ、そう答えた。

 バラドはしばらく何も言わずにそれを見ていたが、コリーンに、

「持ってきてやれ」

 それだけを言い、部屋の隅に立ってエイミの見張りを始める。

 コリーンはこちらに向かって一瞬の笑顔でウインクを送ると、颯爽と部屋を出ていった。
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