7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
第二章 無意識の愛
翌朝、目を覚まして身支度を整えて階段を下りていくと「沙羅様、おはようございます」とマリアが笑顔で迎えてくれた。
「マリア、おはよう」
「朝食にしましょう」
用意されていた朝食は信じられないぐらい豪華だった。
搾りたてのオレンジジュース、焼き立てのデニッシュパン、彩り豊かなフレッシュサラダに新鮮なフルーツの盛り合わせ。
ジャムも数種類用意されていてどれにしようか迷ってしまう。
高級ホテルにでも来たかのような待遇に驚きを隠せない。
けれど、テーブルの上に用意されているのは一人分の朝食だけだ。
「マリア、永斗さんは?」
「永斗様はお部屋におります」
「部屋に?そう。ちょっと行ってくるね」
「はい。場所は分かりますか?」
「昨日案内してもらったし大丈夫。ありがとう」
マリアに笑顔で見送られて私は永斗さんの部屋へ行き、コンコンッと部屋の扉をノックをした。
「……あれ?」
部屋の中では確かに人の気配がするのに、扉が開く様子はない。
もしかして……無視してる?
もう一度ノックして、「永斗さん!」と名前を呼ぶ。
「――なんの用だ」
部屋の扉が開いた瞬間、私は思わず目を見開いた。
上半身裸のままYシャツを手に持った永斗さんが顔を覗かせた。
スラリと細身の体型かと思っていたのに、腹筋は割れ上腕は筋肉で盛り上がっていた。
まるで彫刻のような裸体から目を逸らす。
「あのっ、おはようございます。す、すみません!着替え中だとは思わなくて」
「ひとまず入れ」
指示されておずおずと部屋の中に入り後ろ手で扉を閉める。
「広っ……」
永斗さんの部屋は信じられないぐらい広かった。
けれど、華美な装飾などなくグレーを基調としたシックでシンプルな部屋だった。
それに……。朝だというのに部屋の中はカーテンが閉められていて薄暗い。
「なにか問題が起きたか?急ぎの用件があるなら早く言え。すぐに対処する」
永斗さんは険しい表情でYシャツに袖を通し、ネクタイを手に取った。
「あのっ……」
「はっきりしない様子だな。言いずらいことなのか?」
違う。そうではない。
「これといって急ぎの用件がない限り部屋にきてはいけませんでしたか?」
永斗さんはネクタイを結ぶ手をピタリと止めた。
「なんだと?」
「一階に下りたら永斗さんがいなかったので挨拶をしに来たんです」
「挨拶?お前が俺に?何のために?」
「何の、と言われると困ります。ただ、挨拶は人間関係の基本ですから」
「お前は本当に変な女だ。用がそれだけならさっさと出ていけ」
鬱陶しそうな永斗さん。だけど、私は挫けず尋ねた。
「ちなみに朝食はもう食べましたか?」
「なぜそんなこと聞くんだ」
永斗さんの眉間の皺が一層深くなり、訝し気に私を見つめる。
「私の分の朝食しかなかったので気になってしまって。永斗さんは私と違って仕事で忙しいし、私がもっと早く起きるべきだった……――」
「俺は朝食を食べない主義だ。まさか一緒に朝食を食べる気でいたのか」
「はい。そのつもりで……」
「なぜ俺とお前が一緒に食べる必要があるんだ?」
そこまでハッキリ言われると思わず言葉に詰まる。
両親が生きていたときも、叔母たちと暮らしてからも家族全員同じ時間に朝食をとるのが当たり前だった。
「一緒に食卓を囲みたいと思ったらだめですか?食事は一人より誰かと一緒に食べた方が楽しいです」
「それはお前の考えだろう。俺に押しつけるな」
冷たく突き放されても私はめげずに言い返した。
「昨日も言いましたけど、私は永斗さんのことを知らなすぎます。私のことも少しぐらい知っておいて欲しいんです。だから――」
「必要ない。それを言いたいだけならさっさと出ていけ。俺は忙しい」
ピシャリと言葉を切られ私は渋々永斗さんの部屋を後にした。