7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「待って!!私のバッグ返して!!」

男が逃げていった方向へ弾かれたように駆け出した。

男の後姿はもう見えない。それでも、空港内を必死になって探し回る。

空港内には大勢の人がいるしスーツケースを押しながらのため機敏に動けない。

30分ほど空港内を探し回ったものの、男の姿を見つけることはできなかった。

財布はなくてもせめてパスポートだけでも……。

一縷の望みをかけ空港内のゴミ箱を見て回りバッグが捨てられていないか確認する。

「ない……」

時間が経つにつれ、怒りは薄れ絶望感が全身を包み込む。

自然と目頭に涙が浮かび、頬を伝う。

どうして私ってば異国の地で泣きながらゴミ箱を漁っているんだろう。

惨めすぎて拭っても拭っても涙が溢れて止まらない。

ゴミを手に必死の形相の私を哀れんだように見つめる通行人や観光客の冷たい視線にさらに涙が溢れた。

都合よく盗まれたバッグがその辺に捨てられていることもなく、私は無一文のまま空港を後にした。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」

暗い表情で呪文のようにブツブツと繰り返しながら歩く私を、通り過ぎる人たちがギョッとしたように見つめる。

『一人で海外旅行なんて無茶だ。やめておけ』

『お姉ちゃん、やめなよ。帰ってこられなくなったらどうするの?』

叔父と叔母、二人の妹たちに反対されながらも必死に説得をして叶った今回の海外旅行。

結婚してしまえば、こうやって一人で旅行に行くこともできなくなる……。

いや、きっと許されないだろう。

結婚前なのにあの高圧的な物言いは結婚後もさらに酷くなるに違いない。

私に自由は与えられない。

だから、最後のワガママと思ってなけなしの貯金をはたいて今回の旅行を強行したのに。

それなのに――。
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