7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
卵粥をぺろりと平らげた永斗さんはレンゲを置くと私に視線を向けた。

「……うまかった。家政婦以外の人間の手料理を食べたのは母が亡くなって以来だ」

確か永斗さんがお母さんを亡くしたのは5歳ぐらいの時だったはず……。

「永斗さん……どんな環境で生きてきたんですか……?」

驚きで口から零れ落ちた言葉。

「ごめんなさい、今の言い方失礼ですね……」

「驚くのも無理はない。気にするな。俺が育ったのはこういう環境だ」

家の中をゆっくりと見渡す永斗さんの表情はどこか寂し気だった。

永斗さんは立ち上がりワインセラーに向かうと、ワイングラス2つと高級そうなボトルを手に戻ってきた。

「この家の中に一人でいると虚しくなるだろう?」

グラスに注がれた赤ワインをスッと差し出されて頭を下げる。

「いただきます」

口に含むと、果実の甘味が感じられた。後味はさっぱりしていて飲みやすいけれど一口飲んだだけで体が熱くなった。

正直、お酒はあまり得意な方ではない。度数の少ないお酒でもすぐに飲むと顔が赤くなりぼんやりとしてしまう。

「……はい。この家は一人では広すぎます。私もマリアが帰ってしまった後、とても心細くなりました」

「そうだろう」

「でも、いつか永斗さんに愛する人ができればきっとその虚しさは埋まります」

私の言葉に傾けていたワインを口から離した。

「愛する人……?」

「はい。恋愛なんてほとんどしたことがない私が言うのもあれですけど、人を愛する気持ちほど尊いものはないと思いませんか?」

「俺には分からない」

「私の両親は……青信号で横断歩道を渡っていたとき、信号無視をした車にはねられて亡くなりました。その後、警察の人が言っていました。父が母をかばう様に抱きしめて倒れていたと」

「そうか。……辛かっただろ」

表情を固くする永斗さんに私は微笑んだ。

「娘の私がいうのもあれですけど、両親はとても仲が良かったんです。お互いを愛しているんだなって子供ながらに感じていて」

「いい夫婦だったんだな」

「はい。だから、いつか……私もそんな人に出会って結婚できたらいいなって思っていて。地位も名誉も富も関係なく、愛したい……。愛してもらいたい……」

酔いが回ってきた。

こんなことを永斗さんに話すなんて自分でもどうかしていると思う。

でも、話し出すと止まらなかった。

「でも、理想と現実は違いますよね……」

私は日本に帰ったら北条さんと愛のない結婚をする。それは揺るぎようのない事実だ。

「愛……か。残念だが俺に近付いてくる女たちは俺の金や地位が目当てだ」

忌々しいとでもいうように顔を歪めた永斗さん。

きっと今までたくさんの苦しみを味わってきたんだろう。

大富豪の御曹司であり、石油王でもある永斗さんは人々が喉から手が出るほど欲しい富や名声を持っている。

「そういう人間だけじゃありません。ちゃんと永斗さんを一人の人間として見てくれる女性は必ず現れます」

本心だった。

「――それなら沙羅、お前はどうなんだ」

すると、永斗さんは私の肩を押した。

「っ……!」

そのままソファに押し倒されて驚いて永斗さんを見上げる。
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