7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「……っ」

狭く薄暗いクローゼットの中で身動きの取れない状態のまま、永斗さんは私のことを後ろから抱きしめた。

「ここにいるんだ」

腹部に回った腕の強さにたじろぐ。

ああ、眩暈がしてくる。鼻に届いた永斗さんの甘い香りに心臓が早鐘を打つ。

「永斗さん……?」

思わず身を固くすると、永斗さんが言った。

「今出たらミラに見つかるだろう」

「あぁ……そういうことでしたか」

永斗さんの言葉に誤解してしまいそうになった自分を恥じる。

それにしてもこの状態は心臓に悪すぎる。

背中にぴったりと永斗さんの熱い胸板がぶつかっている。

「もしかして何か期待していたのか?」

「ちがっ……」

耳元で囁かれて体を強張らせる。嫌だからではなかった。

恐ろしかったんだ。

自分で自分を制御できなくなってしまいそうな予感が確かにあった。

永斗さんはあまりにも魅力的だ。

初めて会ったあの日、灰色の瞳で見つめられたあの瞬間から私は永斗さんの存在に囚われている。

体中が熱くなって呼吸まで荒くなってくる。

さっきまで寒かったはずなのに、今度はこんなにも熱くなるなんて。

「沙羅」

私の名前を呼ぶ声にすら私は胸を高鳴らせてしまっている。

恋愛経験はないけれど、男性と言葉を交わしたことも下の名前を呼ばれたこともある。

でも、こんな風に胸を高鳴らせたことは一度もない。

そのとき、突然クローゼットの扉が開いた。

「みーつけた!」

ミラちゃんが笑顔を覗かせる。

「あぁ……見つかっちゃった」

笑いながらそう言った瞬間、ぐらりと体が揺れた。

目の前がぐにゃりと歪み力が入らない。

「……沙羅?沙羅、どうした!?」

永斗さんの声が遠くに感じる。体中が燃えるように熱い。

私の記憶はそこでシャットダウンした。
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