7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
途端、部屋の中がシンっと静まり返る。

そっとベッドサイドまで歩み寄り沙羅を起こさないように足元に腰かける。

顔を赤くして眠る沙羅。おでこに浮かんだ汗を拭うと苦し気な声を漏らした。

「すまない……。お前に無理をさせているようだ」

沙羅は初めての海外旅行で荷物を盗られ、善意で少女を助けて罵られて散々な目にあった。

それに加えて見ず知らずの男に車に乗せられ家に連れてこられたのだ。

そして、フィアンセの振りをするように命じられた。

心労が溜まっていてもおかしくない。

「あと数日だ。それが終われば俺はお前を手放す。それまで我慢してくれ」

柔らかな頬に触れながらまじまじと沙羅の顔を見つめる。

何の穢れもない真っ白な肌、長いまつ毛、血色のいい唇。

あの日、空港で少女を助けた沙羅を見た瞬間、俺は彼女に釘付けになった。

地面に膝をついて少女のケガを確認している彼女は心から少女を心配していると分かった。

彼女に目を奪われていると、駆け寄ってきた両親らしき人物が彼女を罵り始めた。

俺は引き寄せられるように彼女に歩み寄り、彼らの間に割って入っていた。

「俺としたことが……」

昔から理性的で衝動的な行動を好むタイプの人間ではない。

きちんと物事を煮詰めてから行動に移すはずの俺が見ず知らずの彼女に声をかけるなんて。

沙羅に出会ってからの俺はどうかしている。

大事な会議にリモートで出席したことなど一度もなかった。

けれど、沙羅を家に一人でいさせる選択肢はなかった。

なぜだ……?自分自身に自答する。

……マリアにお願いされたからだ。そうだ。だから、俺は仕方なく――。

必死に言い訳を考えている自分に呆れて小さく息を吐くと、彼女から離れたソファに座りパソコンを開いた。
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