7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
視線をベッドに向けると、真っ赤な顔をした沙羅が上半身を起こしたところだった。

「沙羅」

弾かれたように立ち上がりベッドサイドへ歩み寄る。

「永斗さ……ん?あの、私……」

状況が分からず混乱しているのか沙羅は困惑したように俺を見つめた。

「ミラとかくれんぼをしているときに高熱を出して倒れたんだ。なぜ具合が悪いのを黙っていたんだ」

「……少し寒気があって……。でも、まさか熱があったなんて……」

「疲れが原因だと医者が言っていた。その様子だとまだ熱も高いだろう。今日は休むんだ」

横になる様に促すと、沙羅はそれを拒否した。

「だ、ダメです……!今日、パーティの打ち合わせをする予定でしたよね?すみません、約束の時間をとっくに過ぎてしまって……」

立ち上がった途端、沙羅の体がぐらりと揺れる。

「ーー沙羅!」

思わず腕を伸ばして沙羅の体を抱きしめる。

俺の腕にすっぽりと収まってしまうぐらい小さな沙羅の体を抱きしめると、ふわりとやわらかい匂いがした。

体中から燃えるような熱い感情が沸き上がってくる。今すぐベッドに押し倒して自分のものにしたいという衝動に駆られる。

それを理性で必死で堪えながら俺は沙羅の体を抱き上げる。

沙羅の体はあまりにも軽くそして華奢だ。けれど、貧弱かと思えばそうではない。

試着室で赤いドレスを着た沙羅を見た時、心底驚かされた。

信じられないぐらいの色気を沙羅に感じて理性では抗えないほどに欲情した。

マリアが入ってこなければあのまま強引に抱きしめて唇を奪っていたかもしれない。

いや、むしろそれ以上のことも……。

「永斗さ……ん、すみません……」

「無理をするな」

潤んだ瞳で見つめられ思わず目を逸らす。

なぜ俺はこんなにも彼女のことを……。

抱いて欲しいとすり寄ってくる女は大勢いたし、不自由したことは一度もない。

どんなに美しい女を抱いても、体を満たすだけで心が満たされると感じたことはない。

それなのにどうして俺は沙羅に対してこんな気持ちになるんだ。

その理由が分からず混乱する。

「永斗さん……私……」

トロンっとした虚ろな目をした沙羅を再びベッドに連れていく。

「いいか、ゆっくり休むんだ。これは命令だ」

「でも……ちゃんと打ち合わせをしないと……」

「そんなものすぐに終わる。パーティの直前でも間に合うぐらいだ」

沙羅が卵粥を持って現れた時、心底驚いた。

以前、ローカルなネット記事のインタビューで『疲れているとき、手作りの卵粥を食べたくなる』と話したことがある。

母が生きている時、俺が体調を崩した時には必ず卵粥を作って食べさせてくれた。

今はもう、作ってくれる人などいないはずだった。

それなのに――。

マリアが言っていた。

沙羅が事前に用意した俺に関する資料に全て目を通しただけでなくネットの記事も読み漁り勉強をしていると。

自由時間は好きなことをして過ごしていいと伝えていたはずなのに。

それなのに、彼女はそうしなかった。

観光に行くことも金を使うこともしない。

ただ、周りの人間に一生懸命尽くそうとする。

マリアが言っていた。

『沙羅様のような人は珍しいです』と。

マリアの母を心底心配し、ミラの面倒を快く申し出たという。

沙羅は真面目過ぎる。

けれど、そんな真面目な部分を好ましく思う自分がいるのも事実だった。
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