7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました

すると、男性が振り返った。

「……っ」

私はお礼を言うことも忘れて呆然と彼を見つめることしかできない。

綺麗な横顔に目を奪われていたけれど、正面はさらに衝撃的だった。

とても現実世界の人間とは思えないほどに整った顔をしている。

奥二重の眼に高い鼻梁、シャープな顎のライン、そして形の良い唇。

灰色の瞳がジッと私を見つめ返す。

私は本能的に後ずさった。

視線は彼に釘付けのまま息をのんでしまいそうなほど美しい顔を見つめる。

彼は私から目を逸らそうとしない。

それに耐えられずもう一歩下がったとき、盛大に尻もちをついた。

「痛っ……」

一人で勝手に転ぶなんて私ってば本当に情けない……。

彼は黙って私の顔の近くに手を差し出した。

私は震える手で彼の手に触れる。

大きな手のひらでぎゅっと握り返されて一気に鼓動が早まる。

「大丈夫か?」

突然、日本語で尋ねられて驚く。この人……日本人なの?

でも、瞳の色が……。

彼の手を借り引き上げてもらうとようやく我に返った。

「あの……ありがとうございました。今も……さっきも……」

男性に頭を下げてお礼を言うと、冷めた視線で見下ろされた。

「お前を助けたわけではない」

「えっ、でも……」

「日本人か?」

「は、はい!そうです。日本人です」

日本語で話せることがこんなにも嬉しいなんて。

笑顔で答えているのに、男性は表情一つ変えない。

不思議になって首を傾げた時、ようやく気が付いた。

男性の背後には黒いスーツを着た屈強な外国人が複数人いる。

全員が耳にアコースティックイヤホンをつけ辺りを警戒している。

その背後では黒塗りのハイヤーがハザードランプをつけて停止していた。

この人は誰……?

たくさんのSPがついているところを見ると一般人ではなさそうだ。

……私が知らないだけでもしかしたら有名な芸能人なのかもしれない。

そう考えれば整った容姿も納得がいく。

「ここへ来た理由はなんだ」

「ただの一人旅です」

「旅行?荷物はどこだ」

「へっ?」

そういえばスーツケース……。

「あぁ!!スーツケースまで盗まれた!!」

あまりの絶望に天を仰ぐ。

無一文どころか荷物まで失ってしまうなんて。
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