7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
永斗さんが仕事へ行くと、私は気分を変える為に庭に出て散歩をすることにした。

マリアに付き添うか聞かれたものの、私は首を横に振った。

今は一人になりたかった。

一歩外に出ると寒さに全身がかじかんだ。あまり長居をするとまた体調を崩しかねない。

けれど、頭を冷やしたい今の私にはこの寒さがちょうどいい。

広大な庭には緑が多く、木材のようなデザインを意識したタイルの壁や石材の立て込みが庭のアクセントになっていた。

日本ではあまり見る機会の少ない木々を眺めながらぼんやりと歩いていると、敷地内に一台の白い乗用車が入ってきた。

すれ違う際、運転席に乗っていた男性と目が合った。

「誰……?」

車はすぐに停車し、降りてきた男性が私に歩み寄った。

「君は誰かな?永斗の家に女性がいるなんて珍しい」

二重のぱっちりとした目、高い鼻。笑顔の爽やかな茶色い髪の男性はそう尋ねた。

「初めまして、柏木沙羅です」

英語でそう答えると、男性は私をマジマジと見つめた。

「アジア人?」

「日本人です」

「日本人?僕もだよ、沙羅。母が日本人なんだ」

日本語でそう言うと男性はそっと右手を私に差し出した。握手……?挨拶だよね?

その手を握ると、男性はにこりと笑いながら握り返した。

「僕はカイ。日本語では海って書くんだ」

「海……さん?」

その名前に思わず息をのむ。この人がマリアのいっていた永斗さんの弟の海さん……?

こんなにも物腰の柔らかい彼が暴君……?

「この家に住む永斗の弟だよ。母は違うけど、一応血のつながった兄弟だ」

なんて応えたらいいのか分からずに曖昧に微笑むと、海さんが笑顔で言った。

「一緒に少し歩こう」

「……はい」

断るわけにもいかず、私は海さんとともに敷地内を歩いた。

海さんは人懐っこい笑顔でこう尋ねた。

「沙羅、仕事は?」

「少し前までは子供服の会社で働いていました」

「洋服の?デザインとかやったことある?」

海さんが食いついてきた。

「デザインは全くです。販売がメインだったので」

「そうか……それは残念だ」

「海さん、もしかして洋服のデザインされたりするんですか?」

何気なく尋ねると、海さんは「そうなんだよ!」と取り出したスマートフォンの画面を私に見せた。

「子供服もいくつかデザインしたんだ」

海さんは笑顔を浮かべながらデザイン画を見せてくれた。

まるでプロが描いたかのように精巧なデザインに目を奪われる。

「うわっ、すごい!このワンピースすっごく可愛い!!バッグのリボンがおしゃれですね!」

「そうだろう?首回りに付けたレースはどう?」

「それがいいアクセントになってますね」

デザイン画に意見すると海さんはすごく嬉しそうな表情を浮かべた。

「すごい才能ですね……!こんな風にデザインできるなんて」

「才能?」

「はい!海さんが描いたものだって知らなければ、みんなプロのデザイナーさんが描いたものだって思いますよ」

「そうかな?ありがとう。お世辞でも嬉しい」

照れ臭そうにはにかんだ海さん。

マリアから話を聞いて私が想像していた暴君のイメージとはあまりにもかけ離れている。

ひとしきりデザインを見せてもらったあと、海さんはこう尋ねた。

「沙羅、兄弟はいるの?」

「はい。三姉妹で、私は長女です」

「そうか。僕は永斗と二人兄弟。もちろん知ってるよね?」

「永斗さんに教えてもらいました」

「……そうか」

しばらく歩くと、建物からずいぶん離れた場所まで来てしまった。

今頃マリアは戻ってくるのが遅い私を心配しているかもしれない。

「あのっ、私そろそろ戻りーー」

言いかけた時、海さんが立ち止まり私の顔を覗き込んだ。

「沙羅、君はメイドではなさそうだね。だとしたら、どうして永斗の家にいるの?」

「私は……」

「永斗は簡単に他人を敷地に入らせたりしない。それどころか実の兄弟の僕ですら家に入れてくれない徹底ぶりだからね」

海さんは私を舐めるように見つめる。

私は意を決して言った。

「私は永斗さんのフィアンセです」

「君が永斗の……?そんなバカな!」

海さんが顔を引きつらせる。
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