7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「それが永斗の本音だな」

海さんが憎々し気に吐き捨てる。

現れた永斗さんは息を切らして肩を大きく上下させた。それは、慌てて駆けつけたことを意味していた。

「大丈夫か?なにもされていないか?」

「はい。大丈夫です……」

私が頷くと永斗さんはホッとしたように私の肩を力強く抱いた。

大きな手のひらの熱が肩から全身に伝わっていくような気がして、胸が苦しくなる。

「海、勝手に敷地に入るな。次は警察を呼ぶぞ」

「実の弟にその言い方は冷たいなぁ。どうかしてる」

「何をバカなことを。兄の婚約者に手を出そうとする弟の方がどうかしてるだろ」

痛いところを突かれたのか海さんはサラッと話を変えた。

「なんで永斗がここに?仕事はどうしたの?」

「そんなことどうだっていい。沙羅は俺の婚約者だ。二度と近付くな」

「タイミングが悪かったみたいだね。でも、沙羅に会えてよかった。賢そうな君のことだから、僕の言葉の意味はちゃんと理解してくれたよね?」

海さんは意味深な言葉を残し、手を振って去っていく。

その後ろ姿を見つめながら先程の会話を思い出す。

『永斗から手を引け』

『じきに分かる。これは警告だ』

間違いなくあれは脅しだった。

もしもあの言葉が永斗さんに危害を加えるという宣戦布告だったとしたら……?

だとしたら――。

「――沙羅」

永斗さんが私の肩から手を離した。

私の顔を見つめると、みるみるうちに表情を険しくする。

「目が潤んでいる。アイツに何を言われたんだ」

「違います。これは……」

首を横に振ると同時に私の体はすっぽりと永斗さんの腕で抱きしめられた。

「永斗さ……ん?」

「沙羅……お前が無事でよかった……」

永斗さんの体がわずかに震えている。

優しく私を抱きしめる永斗さんの背中に私はそっと腕を回した。

なんて温かいんだろう。

抱きしめられると嫌なことをすべて忘れられる。

私が彼の偽りのフィアンセであることも、日本に帰国後……別の人と結婚することも。

時が止まればいいのに。

ずっと……この温もりに包まれていたい。
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