7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「海のことは本当に申し訳なく思っている。明日のパーティにあいつもくる予定だ。大丈夫か?」
部屋に入りソファに揃って座る。
「大丈夫です。永斗さんが助けにきてくれたので。私はいつも永斗さんに助けられていますね……」
初めて会った日も私は彼に助けられた。
強引に車に乗せられたとき、彼がどういう人間か分からず恐怖を覚えていたというのに、今私は彼の隣にいることに心の底から安堵している。
「あっ……そういえば、さっき海さんにデザイン画を見せてもらったんです」
「デザイン画?」
「はい。デザイナーさんが描くような洋服のデザインです」
一目で目を引く斬新なデザインから万人受けしそうなものまで多種多様なデザインを作り上げていた。
「デザインの話をしている時の海さん、すごく生き生きしていて楽しそうだったんです」
「確かに海は昔から絵の才能があった。温かくて優しいいい絵を描く。俺はアイツの描く絵が好きだった。そうか……今はデザイン画を……」
永斗さんが何やら考え込んだ。
「それ、海さんに言ったことありますか?」
「それってなんだ?」
「絵の才能があるとか、温かくて優しい海さんの絵が好きだって」
「そんなこといちいち言う必要はないだろう」
「ダメですよ。思ってることは口に出さないと相手には伝わりませんよ」
永斗さんも海さんもお互いの本音を隠してきちんと向き合おうとしない。
ちゃんと向き合えばこんな風に二人の間に境界が生まれることはなかったかもしれないのに……。
「思っていることと言えば……」
すると、突然永斗さんは改まったように言った。
「会社に着いてからずっと考えていた。今朝、俺はお前に……――」
「永斗さんのせいではありません。あれは私の心の問題ですから」
「どういう意味だ……?」
「……すみません、私……昨日の夜、永斗さんと秘書の方の会話を聞いてしまって……」
隠しておくのはフェアではないと思った。
全て話し終えると永斗さんの顔色が曇った。
「昨日……?誤解するな、あれは――」
「分かっています。私は永斗さんの期間限定のフィアンセです。ちゃんとそういう契約で私たちの関係は成り立っているんですよね」
「ああ、そうだ」
ハッキリと認めた永斗さん。
「だが、誰だってよかったわけではない。俺が頼めば喜んで協力してくれる女はいくらでもいた。でも、俺は沙羅を選んだ」
永斗さんはそう言うと、私の頬にそっと触れた。
「それがどういう意味か分かるだろう」
「……分かりません」
永斗さんの力強い瞳に見つめられ心臓が激しく暴れまわって私は目を逸らす。
「沙羅、お前が目を逸らすのは本心を隠そうとするときだ。そうだろう?」
「……っ」
「逃げようとされればされるほど、追いたくなる」
「どうしてそんなことを言うんですか……?」
目頭が熱くなる。永斗さんがこんな風に思わせぶりなことを言う理由が分からず心の中が曇る。
自分が永斗さんにとって特別な存在になれるような気持ちになってしまう。
どうせ私たちの関係はあと数日。
そうすれば私たちの関係は全て終わり、赤の他人に戻るのだ。
「どうして?聞かれても理由はない。ただ言いたいから言っているだけだ」
「私は永斗さんの考えていることが分かりません……。あなたが分からない」
「沙羅」
必死に堪えていたのに私の名前を呼ぶ永斗さんの声があまりにも優しくて大粒の涙が頬を濡らす。
「どうして泣くんだ。俺はお前を泣かせたいわけじゃない」
永斗さんはそっと私の体に腕を回して優しく抱きしめてくれた。
温かくて大きな胸の中で私はこれ以上ないほどの幸せを感じると同時に、それがもうすぐ失われるという現実に打ちのめされた。