7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました

「おかえりなさい」

「ただいま」

昼食前に仕事に戻った永斗さんが再び家に帰ってきたのは２０時を少し過ぎた頃だ。

部屋から窓の外を見下ろして永斗さんの帰りを待ちわびていると、遠くの方から車のヘッドライトが近付いてくるのが見えた。

永斗さんが帰ってきたのだと気付き、胸を躍らせながら階段を駆け下りてガレージへ向かった。

車から降りてきた永斗さんは私に気付くとやわらかく微笑みながら私の頭を撫でた。

それだけで私はたまらなく嬉しい気持ちになる。

「おかえりなさい」「ただいま」

自然と挨拶ができていること。そんな些細なことに私の顔はだらしなく緩む。

「待たせたな」

シャワーを浴びて首にタオルをかけて髪を拭きながらこちらへ歩み寄ってくる永斗さんは、普段のスーツ姿とはまるで別人のようだった。

白い無地のＴシャツにシンプルなグレーのパンツを合わせただけのラフな格好にも関わらず手足の長い永斗さんが着るとまるでモデルのようだ。

「い、いえ！お気になさらず」

「どうしてすぐに目を逸らすんだ」

濡れた髪をタオルで拭うその動作が妙に色っぽくて目のやり場に困る。

「早速打ち合わせをしましょう！！」

「まったく……。お前はすぐに俺から逃げようとするな」

恨めしそうな永斗さんの声を背中に浴びながら私はリビングのテーブルの上に永斗さんが用意してくれた資料を並べた。

「これが有名な自動車メーカーの大富豪リチャードだ。そして、妻のキャサリン」

明日のパーティに来る面々の顔写真と情報を一人ずつ照らし合わせてチェックする。

「この人は…？アジア人ですか？」

写真には二十代前半と思われる可愛らしい女性が映っている。

どこか気品の漂う容姿に、煌びやかな装飾品を身に着けている。

お金持ちなのは間違いない。

「そうだ。アヤカは日本の豊川財閥の令嬢だ。ロバート家が主催するパーティには必ずやってくる」

「豊川って、あの豊川ですか！？」

「ああ、そうだ。日本では知らない人はいないぐらいの大財閥の人間もパーティに参加する」

「なんだか眩暈がしてきました……」

今頃になって私はとんでもないことを引き受けてしまったのではないかと心配になってくる。

セレブたちのパーティに私みたいな一般市民が参加するなんて無謀すぎたんじゃ……？

「安心しろ。明日は俺もいる」

永斗さんは不安そうな表情を浮かべる私に微笑む。

「アヤカは結構厄介でな。彼女には何度も求婚されている」

「えっ、求婚ですか！？」

永斗さんの言葉に我に返って声を上げると、永斗さんは私の反応を楽しむように付け加えた。

「俺はお前が思っている以上に女にモテるんだ」

「それは……分かっています」

恐ろしいほどに整った容姿、それに石油王の永斗さんを女性たちが放っておくはずがない。

求婚……か。

永斗さんが望めば、すぐに結婚相手が見つかるだろう。

そう考えると、途端に胸が苦しくなる。

「沙羅、早く俺をお前のものにしておいたほうがいいかもしれないぞ」

「なっ……！」

永斗さんは意地悪な笑みを私に向けた。

「冗談やめてください。絶対にありえません」

「人生に絶対はない」

永斗さんはテーブルの上に用意されていたウイスキーをクイッと煽る。

「少なくとも、私と永斗さんがどうこうなるっていうのは現実的じゃありませんから。それに、私と永斗さんとじゃあまりにも違いすぎますし」

「俺と沙羅が違う？どこがだ」

「永斗さんは大富豪のお金持ちで、私はよくいる普通の一般人ですから」

「だから何だ。金持ちが一般人と結ばれてはいけない決まりでもあるのか？」

永斗さんは不服気に眉間に皺を寄せる。

「ありませんけど……」

決まりはなくても私が永斗さんとそういう関係になる可能性はない。

「だろ？」

フッと満足げに笑う永斗さんがあまりにも魅力的で私の心臓をいとも簡単に高鳴らせた。