7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「中で話をしよう」

「え……」

車に乗る様に促された私はわが目を疑った。

黒塗りのハイヤーは運転席と客席の間が仕切られ、完全個室の形状となっている。

それどころかサイドに客席を設置し、正面にはテーブルやテレビモニター、それにスピーカーまで設けられている。

驚いたことにワインセラーやカクテルキャビネットなどのミニバーまであった。

これは間違いなく乗ってはいけない車だ。

助けてくれると親切心で言ってくれていると思いたいが、ここは日本ではなく海外だ。

無一文で絶体絶命の状態とはいえ、見ず知らずの地で知らない人の車に乗るなんてよく考えれば危険以外の何物でもない。

どこかへ売られるか、それとも置き去りにされるか……。

考えただけでも末恐ろしい。

それに、この車は誰がどう考えても一般人が乗れるものではない。

「何をしてる。早く乗れ」

「あのっ、私……本当にお金がなくて。あとで請求されても払えません」

「安心しろ。お前に請求なんてしない」

「でも――」

「ここから警察署までは距離がある。被害届を出してもお前のバッグは返ってこないし、警察は金を貸してくれない。最悪なことに今日は日曜日で日本大使館に人がいない」

「そ、そんな……!」

「大使館の緊急連絡先に連絡をして金を借りられたとしても、パスポートがないとホテルに泊まれない。ニューヨークの公園で野宿でもするつもりなのかもしれないが、今は12月。夜は今以上に気温が下がって凍死する可能性もある」

「凍死……」

「それに今はホリデーシーズンだ。街中に人は溢れ、酒を飲んで大騒ぎをする人間もいる。そんな奴らとでくわしたらどうする。今日は荷物を盗られただけで済んだかもしれないが違う犯罪に巻き込まれるかもしれない」

顔が引きつる。異国の地で無一文の私は自分が考えている以上に深刻な状態だ。

男性の言葉が現実味を帯びる。
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