7日間花嫁を演じたら、冷徹富豪な石油王の極上愛に捕まりました
「意外に交渉がうまいな。分かった。その倍、出すとしよう」

「だから、違います!あなたが信頼できるかどうかはお金とは関係ないでしょう!?」

「何をバカなことを言っているんだ。関係があるに決まっているだろう」

「私はあなたのお金になんてこれっぽっちも興味がありません。ここにいさせてもらえることにも旅館への支援の申し出も感謝しています。ですが、それ以上の施しは不要です」

「妙な女だ。それなら、お前の望みは一体なんだ?」

「信頼関係です」

「……何を言っているんだ」

呆れた表情の永斗さんに私は気持ちをぶつけた。

「一週間、私はこの家であなたと一緒に生活することになるんですよね?それなら、あなたがどんな人なのかは知りたい。お互いのことを知って信頼関係を築きたいです」

「バカな。そんなことで信頼関係など築けるはずがない。ましてや築く必要性も一切感じない」

断言したような強い口調の永斗さんにたじろぐ。

眼光の強い切れ長の瞳は冷めきっている。

永斗さんは私との間に一線を引き、目には見えない壁を作っている。

「綺麗ごとを言うのはよせ。信頼関係なんて築いたところですぐに壊れるんだ」

「そんなこと……ーー」

「ぬるま湯で育ったお前には分からないだろな」

突き放された言い方に返す言葉がない。

「確かにお前は人がいい。普通の人間は自分がケガをしてまで見ず知らずの子供を助けようとはしないだろう」

永斗さんの視線が私の足元に向けられる。

そのときになってようやくデニムの膝部分の一部が破れてしまっていることに気が付いた。

「困っている人がいたら助けるようにと育てられましたから」

「だが、その結果がこれだ。バッグを盗まれ、挙句の果てに子供を助けたらその親から誘拐しようとしていたと罵られる。親切心は時として仇になる」

確かに永斗さんの言う通り。

昔からそうしないといられない性分なのだ。

やらずにする後悔よりもやってする後悔の方がずっといい。

「人間は必ず裏切る。それが例え家族だとしても。赤の他人ならなおさらだ」

永斗さんは冷めた表情で立ち上がった。

「互いのことなど知る必要はない。俺の情報なら後で付き人に聞けばいい」

「でも……」

「契約書は今日中に用意する」

「契約書まで作るんですか……?ちゃんと約束しましたよね?」

「言っただろう。俺はお前を信じてなどいない。もしも契約を破ったら旅館がどうなるか……、意味は分かるな?」

私はすぐさま否定した。

「私、ちゃんと約束は守ります!」

「口約束など信じられない。――裏切らないのは金だけだ」

冷めた口調で言うと、永斗さんは部屋から出て行った。
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