元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
「仕方ないですね。行きますよ」
ルシウスはゆっくりと立ち上がった。
「行く?どこにですか?」
「決まっているでしょう。デマール男爵のところへ。さっさと事件を解決しましょう」
「い、今からですか?」
「当たり前です」
「でも、お仕事は……?」
「俺が数時間空けていたところで支障はありません。うちの従業員は優秀ですので」
それなりに大きな組織の代表がそれで良いのか。
だがシエラがこれ以上何も言わなかった。彼はこちらが多少渋ったところで意見を変えるような男ではない。反抗するだけ無駄だ。
「ああ、馬車は今すぐ手配できますね?」
「わかりましたわかりました! 全く、相変わらず助手遣いが荒いんだから」
「助手……」
何気なく言ってしまった言葉だった。彼と話すうちに、前世の記憶に引っ張られていたのだ。
ルシウスは、いつもの薄笑いを消し、ぞくりとするような目でシエラを見た。