元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
シエラは静かにうなずいた。
先ほどその可能性に思い当たり、胃の中の物が逆流しそうなほど気分が悪くなった。今もそのときの気分が蘇り、思わず口元をハンカチで押さえる。
「大丈夫ですか?」
ルシウスが、気遣うような色をにじませた声で言った。
彼はそのしっかりとした両手で、包み込むようにしてシエラの頬に触れる。
まっすぐシエラを見つめる、美しい青い瞳。
……なのに、シエラには、黒い瞳とさらりと頬を撫でる黒髪を持った美青年の姿が重なって見えた。
ルシウスに重なって見える黒瀬は、シエラに──否、静奈にゆっくり顔を近づけてきて、唇同士を触れさせ……。
「だ、大丈夫です!」
シエラはぐっとルシウスの肩を押した。
ルシウスの顔は別にシエラに近づいてきてなどおらず、先ほどと同じ位置から探るようにこちらを見ているだけだった。
額にじわっと汗が浮かぶ。
……馬鹿、いったい何を思い出してるのよ私。
それは、何の前触れもなく再生された前世の記憶だった。