元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
シエラはダイアナの家に行ったときのことを思い出す。
彼女の息子は、確かに家にいた。誘拐なんてされていない。
それに、気になることはもう一つ。
書かれているのは一週間と少し前の日付。シエラは指折り何度も数えて確信する。
「この日、マルガリータさんが遺体で見つかった日の前日です」
「……なるほど」
ルシウスはにやりと笑みを浮かべた。
何かを思いついた顔だ。しかしそれをシエラに教える素振りはない。
代わりに何の前触れもなくこんなことを聞いてきた。
「武士が切腹するとき、何故後ろに介錯人が控えているのか知っています?」
「へ? 武士? 切腹?」
あまりにこの世界にそぐわない前世の単語。さすがのシエラもすぐには頭で変換できなかった。
「腹部を切っても、即死できないんですよ。切腹は名誉を守る死に方なので、あまり長時間苦しめるわけにはいかない。だから首を斬るんです」
「はあ……」
「要するに言いたいのは……一突きで確実に仕留めたいなら、腹部ではなく胸を狙うべきなのですよ」