元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。




「正直、すごく意外でした」



 息子が待つ家にダイアナを送り届けた後の馬車の中。

 令嬢探偵モードから解放されたシエラは、手で顔の筋肉をほぐしながら言った。



「まさか貴方が犯人を見逃すなんて。前世ではいくら同情の余地があっても見逃したことなんてなかったのに」

「マルガリータ・デマールは腐っても貴族。あの平民親子が貴族を殺してしまったわけですからねぇ。身分で罪の重さが左右されるこの世界では、生きて罪を償うことすらできないでしょう。前世(日本)とは事情が違いますよ」



 それはそうだ。

 ルシウスは「それに……」と続ける。



「今の俺は探偵ではありませんしね」


 思わず息を飲んだ。

 晴れ晴れとしているようで、どこか寂しそうにも見える表情。


 それを見たシエラは、色々あったせいで朝に聞きそびれたきりだったことを思い出した。

 静奈が死んだ後の黒瀬の人生。静奈が死んでそう経たないうちに命を落としたという話だった。



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