元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



「前世の俺が探偵を始めたのは静奈くんと出会う二年前のこと。当時在籍していた大学を辞め、突然探偵を始めたのですが──それはそもそも、医者から余命5年だと宣告されたのがきっかけでした」

「なっ……」

「まあ、実際は5年よりもう少し短かったですけどね」



 彼はまるで他人事のように、淡々とそう言った。

 いや、記憶を引き継いでいても、今の彼は黒瀬とは別の人間。実際彼にとっては、過去のことどころか他人事なのかもしれない。


 二年近くの時間、静奈は黒瀬と毎日共に過ごしていた。それなのに、そんな大事なことを知らされていなかった。

 湧き上がってくるような怒りと悲しみ。それらをどうにか抑え込み、シエラは努めて冷静に言った。



「そんな素振り、一切見せなかったじゃないですか」

「まあ必死に隠していましたからねぇ。薬を飲むのは自室だけ、病院へ行くのも黙っていましたし」

「教えてくれても良かったんじゃないですか?」

「……静奈くんには、病状が本格的に危うくなる前に助手を辞めてもらうつもりでいたんですよ」



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