元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
そのため、静奈は最初自分の身に何が起こっているのかわからず、硬直してされるがままになっていた。
彼は唇を離さないまま、頬にあった手を、すっと滑らせて首に移動させた。
そこで気が付いた。脈を測られているのだ。
そして触れている唇は、恋い慕う人にキスをしているというより、静奈の息遣いや体温を確認しているようだった。
彼は、死に触れたことで受けたショックを、生きたものの熱や脈動に触れることで、癒そうとしているのだと感じた。
相手が静奈だったのは、単にそこにいたからだろう。
「黒瀬さん。私はここにいます。生きています。だからそんな顔しないで……」
唇がゆっくり離れると、静奈は泣きそうな声で言った。
……胸が、ぎゅっとなって苦しかった。
初めてのキスをこんな形で奪われたのが悲しかったからではない。
黒瀬が弱っている様を静奈に見せてくれているのが、気持ちを鎮めるために静奈を求めてくれたことが、嬉しくてたまらなかった。そして、この瞬間初めて自覚してしまったのだ。