元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 事件の依頼だったらまだ良かった。

 シエラは苦々しい笑みを浮かべた。



「いや、その……お見合いを少々……」

「……は?お見合い?」

「ええ。ラドクリフ侯爵家当主のクリストファー様という方が何故か私のことを見初めてくださったらしくて、結婚を申し込まれているんです。これまでほとんど話したこともなかったので驚いてるんですけど、侯爵様からのお話しを無碍にするわけにもいかないので、一度会ってみろと父が」

「そうでしたか……」



 シエラは何となくルシウスの顔を見られないまま、軽くお辞儀をして部屋を出た。


 貴族の家に生まれた以上、愛のない政略結婚は覚悟しなければならない。だが、シエラに来るその手の話は、同年代の貴族令嬢に比べればかなり少なかった。

 その理由はもちろん、シエラに「令嬢探偵」などという二つ名があるからだ。

 難事件を華麗に解決する探偵としてのシエラは、貴族たちの間でもずいぶん有名人で人気者ではあるが、嫁に迎えるとなると話は別だ。好んで無関係の事件に首を突っ込むような令嬢、敬遠されて当たり前だ。


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