元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
それに加えシエラの父はだいぶ娘に甘い。たまにどこぞの物好きがシエラに見合い話をもちかけるようなことがあっても、結婚なんてしたくないとごねれば断ってくれる。父としても大好きなシエラに家を出て行って欲しくないという思いがあるのだろう。
そのため、こういった結婚の話に現実味のあるお見合いは初めてだ。
今回はとにかく相手が悪かったのだ。シエラを嫁に欲しいという物好きである上に、侯爵という高い身分の人間で、おいそれとは断れない。
とはいえ、シエラは別に今回も結婚までするつもりはなく、どうにか円満に断る方法を考えていた。
「定番は『他に好きな人がいて……』ってやつよね」
しかし実のところ、シエラになってからまともに恋をしたことがない。ちょっと追及されたらすぐにボロが出そうだ。
それからふと、この前のことを思い出す。
『私は、黒瀬さんのことが好きだったから……大好きだったから、思わず自分を犠牲にして助けてしまったんです』