元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
頼む。どうかこれで折れてくれ。
心からそう願ったが、ラドクリフ侯爵は首を横に振った。
「評判なんてどうでもいい。そう思えるぐらいにわたしは貴女が欲しいと思っているんだ。シエラ嬢が探偵として働くことへの協力だって惜しむつもりはない」
「ですが……」
「とは言ってもそうだな。わたしの方はあの日一目惚れして以来、貴女について色々と調べさせてもらった。だが貴女にとってはこれが初対面も同然。そんな男の言葉を信用できないのは当たり前だろうね」
シエラに口を挟ませまいとするように、ラドクリフ侯爵は早口でまくし立てていく。
美しい顔をずいっとシエラに近づけて、妖艶な笑みを浮かべた。
「だから長期戦でいくつもりだよ。少しずつ私のこと、それからラドクリフ家のことを知ってもらえたらと思うんだけどね」
「え、いや、ですから……」
「そうだ。今日はまず我が家の庭を案内しよう。どうぞこちらへ」
ラドクリフ侯爵はそう言って手を差し出した。
どうやら話は聞いてもらえそうにない。いったん諦めて、シエラは大人しくエスコートされることにした。