元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。
連れてこられた庭には、赤、白、オレンジ、黄色といったカラフルな花が大量に咲き誇っていた。
ふわりとしたレースのような柔らかい花びらで、一つ一つの花が大きく存在感がある。
「ポピーの花だよ。可愛らしいだろう?」
「ええ。とても綺麗です」
正直に答えれば、ラドクリフ侯爵は満足そうに微笑む。
「ポピーはこの辺りには自生しているんだよ。この庭にあるのはそれをさらに大きく美しく咲くように品種改良したものでね。花束やガーデニング用に需要があるから、うちの特産品の一つなんだ」
「そうなんですか。確かにこんな綺麗な花でできた花束をもらったら、思わず笑顔になってしまいそうです」
「はは、笑顔ね。そうか、つまり今この花を摘んで花束にしてプレゼントしたら、貴女は笑顔になるということかな?といっても今手元に花束向けの紙もリボンもないからな……」
ラドクリフ侯爵はそう言いながら、一本の赤いポピーの花を手折った。そしてその花をシエラの髪にそっと挿す。